『  永遠の物語 』



                 笑い声がする。
                 それもたくさん・・の子供の声。
                 しかも、なんだか変な音がするぞ。


                 バーン!



                 「うわあ、なんだ?」
                 ジョーは目を開けて飛び起きた。そして周りではしゃぐ子供達を見渡すと、その
                 うちの一人をつまみ上げた。
                 「おめーかっ」
                 その子供・・正しくは小さな羽根を付けたエンジェルだが、その子はジョーと目
                 があうと、にかっと笑った。手にはタンバリンを持っている。
                 「だってー、どんな音がするかなーと思って」
                 「あのなあ、叩けばどんな音が出るかって分かってんだろうが。わざとやった
                 ろ。ちゃんと言え」
                 子供達といえばもうお構いましに彼の周りで好き勝手なことをしている。寝そ
                 べってのんきに寝ている者がいれば追いかけっこをしてすっ転んでいる。
                 ジョーははあとため息をついた。
                 元はと言えばあいつがー。

                 ここにきた時に案内したり何かと世話をしてくれた(ジョーは余計なことだと
                 思っているが)天使がジョーの子供の扱いがいいということで小さなエンジェル
                 たちの子守を押し付けた(とジョーは思っている)のだ。

                 「ねえねえ、お兄ちゃん」
                 「・・・あ?」
                 「そんな怖い顔しないで笑いなよ」
                 「るせえ、怖い顔は生まれつきだっ・・なんで笑わなきゃいけねえんだよっ」
                 「いいから笑ってみて」
                 ジョーはあまりにもじっと子供達が迫るように自分を見るので、おかしくなって
                 笑い出した。
                 すると子供達の表情が明るくなった。
                 「ほらあ、笑うとお兄ちゃんだって可愛いよ!」
                 「何い?バカにするのもいい加減にー」
                 ジョーはハッとした。
                 思えばあれ以来心から笑ったことがない。そりゃあ仲間達と一緒にいた時は楽し
                 かったし多分笑ったりもしただろう。
                 だが、あの日から心を閉ざし、いつも苦虫を潰したような顔をしていた・・かも
                 しれない。いつもギャラクターに怒り、復讐を考えていた。
                 そうだよな・・彼は目を閉じた。
                 やはり子供のような心を持つのは大事かもな。
                 「ふん、こんなチビどもに教えられるとはな」
                 で、そのチビどもは相変わらず彼の周りで好き勝手に遊んでいた。取っ組み合い
                 をしてみたり、はたまた雲をつかんで何かを造形してみたり・・。
                 すると一人が絵本らしきものを手にしてやってきた。
                 「ねえ、ご本読んで〜」
                 「本?」
                 開くと文字だらけだ。
                 「ぼくたち読めないんだもん」
                 「ひらがなだらけだけど?」
                 「元人間だけしか読めないんだ」
                 聞くと彼らにはただの模様にしか見えないらしい。
                 ジョーは父親に日本人の血が入っててよかったと思った。
                 (でも何で日本語?)
                 とりあえずジョーは読んでみることにした。どんな童話が書かれているんだ。


                 『(漢字入りの文章に直しています)
                 地球はとても青く美しい星です。緑という緑が生い茂り、生き物も生き生きと暮
                 らしています。
                 しかし、地球はある星からやってきた謎の生物により大きく変わっていきまし
                 た。
                 その生物は多くの者を従え、やがて彼らは大きな組織となって次第に地球上の国
                 々を脅かして支配しようとしました。
                 そこの首領の男は部下を次々と送り出し、またとてつもなく巨大な機械を作り出
                 し、人々を苦しめていきました。

                 そこへ現れたのは人々を救う戦士たちでした。
                 彼らは知恵と勇気で敵に立ち向かい、巨大な組織と戦い続けました。

                 しかし戦い続けた彼らのうち一人が不治の病にかかってしまいました。』

                 「・・・・・」
                 ジョーは眉をひそめた。
                 (・・・もしかして・・)


                 『だけどその人は諦めずに戦い続けました。いよいよ地球が消滅しようとした
                 時、彼が敵に投げつけた1本の羽根がその機械を壊し、すんでのところで危機を
                 免れたのです。

                 その人は静かに永遠の眠りにつき、地球は元の美しい姿を取り戻したのですー』


                 ジョーは絵本を置くと、静かに立ち上がった。そして子供達が見守る中、歩き出
                 し、立ち止まった。
                 (・・・あの時の・・・)
                 初めて出会った初老の人物が、お前さんが地球を救ったと話していたことを思い
                 出し た。*

                 (本当だったのか)


                 爽やかな風が吹き、彼の栗色の髪と背中の翼を優しく揺らした。
                 いつの間にか子供達の姿はなく、ジョーはただ一人佇んで遠くの地球のある彼方
                 を見つめていた。





                                 ー  完  ー



                    *「安息の地」参照










                                    fiction