夜になった。
城嗣は満を持して店に入った。そこにいた数人の女性スタッフが彼を
見るなり、色めき立った。
彼の彫りの深い精悍な顔つきとスラッとした長身は彼女達の心を捉え
るのに時間がかからなかった。
城嗣が腰掛けると、早速若い女性が2人彼の横に座った。
「ねえ、初めて?どこの人?」
「イタリアだ。」
「まあ、じゃあもうお手のものね。色んな女性たちの相手をしてきた
んでしょ。」
「(すげえステレオタイプな発想だな)・・でも君たちほどの美人に
はまだ会った事ねえな。」
女性たちはほほほ・・と笑った。
「あらいやだ、お上手ね。」
「奥さんとかいらっしゃるの?」
「いたらどうする?」
彼の肩に手を置いた女性は顔を近づけて意味ありげに言った。
「・・・奪っちゃう。」
城嗣はふっと笑って視線を逸らしたが、突然グラスの割れる音がした。
「おうおう、ここは客に虫入りの水を飲ますのかい?」
「大声出さないでください。」
「黙れっ。おい、俺に楯突こうってのかい?いい度胸だな、顔出せ
や。」
サングラスを掛けたチンピラ風の男がウェイターを脅し、ナイフをチ
ラかせている。
「うちの組の者どもを嗾けてもいいのかい?」
そこへ煌びやかなドレスを身に纏った女性が奥から出て来た。すると
周りの男たちが”姐さん”と口々に呼んだので、城嗣はその女性を見た。
(・・・あの女か)
「うちの店で喧嘩はよしてくれないかい。どこの組のお人か知りませ
んが、そんな粗暴な振る舞いはここでは不釣り合いでね。」
「何っ、このアマーぐおっ」
男は女性に股間を蹴り上げられたので悶えてその場にうづくまってし
まった。
「そこらに捨てておしまい。」
「へい。」
男達はその伸びた男を担いで店の外へ出て行った。どうやら他の組と
抗争しているらしい。で、敵対している相手の組の男が何かを探ろうと
入って来ていたようだ。
そんな中、男の一人が女性に近づき、恭しく言った。
「姐さんに会いたいと言っている者があちらに。」
女性は城嗣を見た。そしてふーんと言う表情をした。
「あら。私をご指名してくださるの?」
女性はもったいぶるようにしなを作り、彼の隣に座った。
「何故私を?」
「噂を聞いてね。」
「噂?」
「何かどでかい事をしている連中がいるって小耳に挟んだのさ。」
「貴方はどこかの者ね。」
「想像に任せるよ。」
「ふふ。何が知りたいのかしら?そう簡単に他の組織に話すような軽
い女に見えて?」
「いいんだ、話すようになるさ。」
城嗣はウェイターにカクテルを持ってくるように言った。なので女性
は笑った。
「酔わせて言わせようってこと?油断ならないわね。」
女性は彼に身を寄せ、頬を触れた。
「君のところはだいぶ大きい事をしているそうじゃないか。」
「あら、そこまで知っているの。」
「知っているのはそこまでさ。それは何かの取引かい?」
女性はじっと城嗣が見つめているのを見て、ぼうっとした表情をした。
「・・・あの人は重要な任務を担っているのよ。」
「任務?」
交番前で立っていた健一は、佳美がやってくるのを見てそちらを見た。
「あれ、村上さん。どうしたんだい?華音ちゃんは?」
「美香が見てる。それより、浅倉くん知らない?」
「あいつなら、いないぞ。呼び出しがあって。」
「呼び出し?何かやったの?」
「いや、捜査らしい。」
「何で?」
普通捜査は刑事の仕事だ。交番勤務の警官はやらない筈だ。
「・・・あいつ!」
佳美はキッと目を見開き、今来た道を引き返した。
「あ、おい。・・・・どうしたんだ?」
大あくびをしてパソコンの画面を見ていた吉羽刑事は、つかつかと
やって来る佳美を見てめんどくさそうにそちらを見た。
「話があるの。」
「ここは『捜査一課』ですよ、貴方のような人が来るところじゃな
い。」
「ふんっ。ねえ、どういう事よ?何故例の囮捜査、彼にやらせたの
よ。」
「彼?ああ、浅倉警部補ですか。」
「こういう仕事は貴方達の仕事でしょ。」
吉羽はふんと鼻で笑った。
「でもこーんな顔(自分を指す)より、ああいう色男の方が適役で
しょ、悔しいけど。女の方が腰砕けになって万々歳じゃねえかーい
いっ!」
吉羽は突然佳美が足を思いっきり踏んづけたので声にならない声で
うめき始めた。
「バカ!人でなし!彼がどうかなったらどうすんのよっ!」
「どうかなってって・・それは相手の方じゃ・・・・ううっ」
佳美は怒ったまますたすたと捜査一課を後にした。そして廊下に出る
と駆け出した。
