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                        〜エピソード8 囮捜査〜




                 捜査一課。
                 そこには数人の精鋭達が集まる署きっての部署だ。
                 そんな中、吉羽刑事は壁に寄りかかってう〜んと唸っていた。足を
                床の上で踏みならし、見るからにイライラしている様子だった。
                 なので、同僚の田中はそうっと彼に近づいた。
                 「・・・あのう、先輩・・・・」
                 「あ?」吉羽は睨んだままの顔で彼を見た。「なんだ。」
                 「いや、その、なにをそんなにカリカリしてんのかなーなんて。」
                 「別にカリカリしとらん!」
                 「・・・してるじゃないですか・・・。」
                 吉羽は足下を見た。
                 「・・・・。」
                 「何かあったんすか?」
                 「・・・おい、田中。あいつの事、どう思う。」
                 「あいつ?」
                 「いつも邪魔するあいつだ。」
                 「鷲尾先輩ですか?」
                 「そいつもそうだが、もう一人!」
                 「ああ、浅倉先輩ですか?」
                 「お前はあいつが好きか?」
                 「えっ」田中は思わずきょろきょろした。「せ、先輩、何言っちゃ
                 ってんですか?俺は男ですけど・・・。」
                 「バカ!そんな事は分かってる!と言うか、そういう意味じゃない!」
                 「あー、びっくりした・・・。それじゃどういう意味ですか。・・・
                 別にどうって・・。」
                 「たいだい、犯人捕まえたり調書を取るのは、俺たちの仕事だ。」
                 「はい。」
                 「それなのに・・。交番にいないで、パトロールついでに犯人探し
                 やってる。」
                 「凄いですよね、どんな凶悪な人間もひとたまりもない。」
                 「褒めるなっ」
                 「・・すみません。でも、先輩。所長が彼らにやらせてたりするんで
                 すよ。彼らの方が優れているから、って。」
                 「どうせ所長にゴマでも摩ってるんだろ。」
                 「えー、まさか。」
                 すると、他の同僚がやってきた。
                 「おーい、仕事だ。例の事件を握っている人物に探りを入れる事に
                 なった。」
                 「ある人物?」
                 「ああ、ボスの愛人だ。彼女のいるスナックに潜り込んで彼女から
                 情報を聞き出すんだ。」
                 「・・うわあ、そんな事ー」
                 田中はそう言って慌てたが、吉羽は何かを閃いたらしく、こう言った。
                 「いいでしょう、その件、引き受けますよ。」
                 「せ、先輩!」
                 「田中、適役がいるじゃないか。な?」
                 「え・・・ええ?」

                 交番に書類を持って来た純子は一人カウンターで作業をしている健一
                を見て近づいた。
                 「健。ジョーは?」
                 「呼び出されて行ったよ。なんでも今度の捜査に必要なんだってさ。」
                 「何の捜査なの?それって、捜一の仕事じゃないの?」
                 「・・・そう言ったけどね。」
                 「ふーん・・・。」
                 純子はまた外へ出た。
                 「買い物してくるわ。」
                 「え?お、おい、ジュン。」
                 健一はそそくさと行ってしまった純子を見て呆然とした。
                 「・・・まさか。・・あいつ、いつになったら作れるようになるの
                 かな。」


                 店の入り口に着いた城嗣は辺りを見渡した。人気(ひとけ)もなく寂
                れた場所だ。
                 しかしここは繁華街から離れたところとは言え、バーやスナックなど
                が並ぶちょっとした穴場的場所だ。夜な夜な客が押し寄せては、商談や
                様々な約束事などが日常的に行われているのだろう。
                 城嗣は店の人が出てくるのを見て少し離れ、様子をうかがった。ここ
                の従業員のようだ。
                 彼はそっと近づいた。
                 相手は掃除をし始めていたが、顔を上げた。
                 「何だい、まだやってないよ。」
                 「分かってるよ。ちょっと、聞きたい事があってね。」
                 「・・聞きたい事?」
                 城嗣はさっと名前の書いてある紙を見せた。
                 「この人に会いたいんだが。」
                 「・・・・姐さんに?ダメダメ、一見さんはお断りだよ。・・・あん
                 た、外人さんかい。」
                 「ふん、会うのに国籍を言う必要があるのか?」
                 「・・・いや、かえっていいかもな。外人の方が相手に取り易いだろ
                 うしな。」
                 従業員の男がそう言って上から下まで舐めるように見たので、城嗣は
                眉をひそめた。
                 「ここは客でも取っているのか?」
                 「ははは、大きい声じゃ言えないがね。お巡りに気付かれたらヤバい
                 から。」
                 「・・・・。」
                 「多分、姐さんは今夜出る筈だよ。またその時に来るんだな。」
                 「分かった。世話かけたな。」
                 城嗣は去って行ったが、男はじっと彼を見ていた。




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