title_banner



                      〜エピソード7 刃物男〜



              ホントワールのとある町の中はとても賑やかだった。
              立ち並ぶお店と言うお店には赤や金、銀の飾りがキラキラ輝き、道行く
             人々も笑顔で溢れていた。
              そう、今はこの1年で一番世界が光り輝く時期なのだ。

              そんな町中を、城嗣は華音の手を引いて歩いていた。彼女はいつもは警察
             署の託児室に預けられ、相手してくれる婦警たちと過ごしたりしていたが、
             今日はこうして城嗣と一緒に出かけられて嬉しそうだ。そして色んなお店の
             ディスプレイを目を輝かせて見ては、彼に近くで見たいとせがみ、半ば強引
             に引っ張ったりしていた。
              そしてそんな2人の後ろを村上佳美と天童美香の2人もいて、やはり同じ
             ようにきょろきょろしてあれ綺麗、だのこれ素敵ーと言っていた。
              城嗣は彼女たちを見て言った。
              「確か今日課長の呼び出し喰ってたって言ってなかったか?2人一緒に来
              てまずくねえのかよ?」
              「あらー、あんなのたいした用じゃないわよ。どうぜ課長の気まぐれなん
              だから。」
              「断ったのか?知らねえぞ、後で何があったって。」
              「大丈夫、大丈夫!」
              「どうせ、誰に言ったのかも忘れてるから。いつもそうよ。」
              城嗣はやれやれとため息をついた。
              そして華音が袖を引っ張っているのに気づき、見下ろした。
              「どうした?」
              「・・・・おしっこ・・・。」
              「あらー、大変。」
              城嗣は顔を上げた。ちょうど彼らの目の前に老舗のデパートが建っている
             のが見えた。
              「よし、あの中に入ろう。少し我慢出来るか?」
              華音はこくんとうなづいた。
              「うん。」
              彼らはこれまた綺麗に着飾った入り口に向かって歩き出し、中へ入った。

              中はやはりいつもよりも人手で溢れていた。この時期はどこも活気が満ち
             ている。
              奥まったところのトイレに着くと、佳美が華音を連れて中へ入った。
              城嗣は美香と入り口近くで待つ事にしたが、やがて美香が口を開いた。
              「実は凄い大物を狙っているみたいよ。」
              「大物?」
              「何でも、大銀行とか大地主とかを牛耳っている男で、金でなんでも動かす
              力があるらしいの。」
              「ふーん。」
              「最近何者かが署に匿名で通報してきてね、近々どでかい事をするらしい。
              恐らく多くの人々が犠牲になるだろう、って。」
              壁に寄りかかり、腕を組んで目を閉じて聞いていた城嗣は目を開けた。
              「お前達に宣戦布告している。早くヤツを押さえないととんでもない事に
              なるだろうって・・」
              「・・・物騒だな。で?その大物とやらのめどは付きそうなのか?」
              「どうかしらね・・。今みんな洗い出しに翻弄されているわ。」
              2人は会話を止めた。佳美と華音が出て来たからだ。
              そして再び城嗣は華音の手を引き、後の2人は彼らに続いて歩き出した。

              お昼時になり、ますます混雑して来た。彼らは人にぶつからないよう歩き
             出した。
              そして職業の性か、3人は視線を動かして特に人々の手の動きを見ていた。
              このような人が多いところではスリや万引きなどが起き易いからだ。
              そう、期せずして私服警官が店内を見回している形になった。
              そんな賑わいが突然騒然とした雰囲気に包まれたかと思うと、女性の悲鳴
             があちこちで響いた。
              3人は立ち止まり、振り返った。
              人々がちょうど通路の端に寄ったので、一人の男が駆けてくるのが見えた。
              「わっ、な、何?」
              城嗣は男の手を見て叫んだ。
              「刃物を持ってるぞ!」
              「ええっ」




                              next