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                     〜エピソード5 強盗犯を捕まえろ!〜


             警察署のある階の奥に、育児室があった。
             職員がどうしても子供を家などに置いて行けない事情がある場合に限り、
            ここで預かる事になっていた。
             そしてそこでは華音が床に這いつくばってお絵描きをして遊んでいたが、
            やがて起き上がって窓際で外を眺めている佳美巡査長の近くにやって来て、
            彼女の上着を引っ張った。
             「お姉ちゃん。」
             「ん・・・」
             佳美は顎に手をつけてぼうっとした表情で返事をしたが、何となく上の
            空、という感じだった。
             なので華音は、さらに引っ張り続けた。
             「ねー、お姉ちゃーん・・どっか行こ。かのん、つまんなーい。」
             「そうねえ・・・」
             華音はぷいと頬を膨らまし、手を離した。そしてまた床に転がった。
             「はあ・・・どうして秋ってこう物悲しいのかしらねえ。まるで私の心
             の中みたいだわー。」
             ふと彼女は時計を見て立ち上がった。
             「あら、いけない、会議だったわ。ねえ、華ー」
             振り返った佳美は、華音の姿がないのに目を見張った。
             「・・えっ、やだ、どこに行っちゃったの。」
             佳美はドアを開けて廊下に出た。そして誰もいない中、足早に辺りを見
            渡しながら探し回った。

             華音は外に出てしまい、通り過ぎる人たちを見上げていた。そして歩き
            出した。城嗣のいる交番に行こうと思っていたのだ。
             いつもは佳美たちと一緒に行っていたのだが、退屈になってこうして出
            て来てしまったのである。
             そんな彼女の目の前を男が2人駆けて来たが、華音に気付かずにそのま
            まぶつかって来た。
             華音は突き飛ばされ、道路に倒れてしまった。そしてびっくりしたのと
            痛いのとで彼女は泣き出した。
             「うわっ、やべえ。」
             男達は辺りを見渡し、一人は彼女の口を抑えて抱えた。
             「おい、早くずらかろうぜ。」
             「お、おう。」
             もう一人は抱えていた鞄をしっかり持ち、彼らは慌てて走り出した。
             ちょうどそこを通りかかった美香巡査長は、足を止め、あ、という顔を
            した。
             「あら、華音ちゃん?・・・あの人たち、誰?まさかー」
             そこへ息を切らして佳美がやってきた。
             「美香、華音ちゃんを探して。いなくなっちゃったのよ・・」
             「ええっ、やだ、佳美。しっかりしてよ。・・・あ、華音ちゃん、変な
             2人組に連れ去られて行ったわ。」
             「えっ。」
             「仕方ない、連絡しよう。」
             「うん・・・あーあー、きっと怒られるなあ。」

             城嗣は自分の携帯が鳴ったが、運転中だった。
             「健、悪い。出てくれ。」
             健一は彼のポケットから携帯を取り出した。
             「はい。」
             『あれっ、鷲尾くんの声がする。』
             「運転中だから俺が代わりに出たんだ。何だい、天童さん。」
             『あ、あのねえ、怪しい2人組を見つけたわ。』
             「怪しい2人組?」
             『それでね・・・実は華音ちゃんが・・・』
             「・・・・何?・・・そうか、分かった。」
             健一は切ってダッシュボードの上に置いた。
             「何だって?事件か?」
             「ああ・・・。その2人組が華音ちゃんを連れて逃走したらしい。」
             「は?・・・何で。」
             一瞬城嗣は隣の健一を見たが、また前に戻した。
             「分からん。とにかく署へ行こう。」

             署の近くに宝石店があった。例の2人組の男達は、そこに侵入し、展示
            ガラスを割って中の宝石を盗んでいったのだ。
             建物の周りには既に非常線が張られ、数人の刑事や警官が立ち入って物々
            しい雰囲気に包まれていた。
             「こんなところで強盗を働くなんて随分舐められたもんだな。署の目の
             前だぞ!」
             刑事の中の一人がそう他の刑事に言っているのが聞こえた。
             佳美と美香は、視線を動かしてやってきた健一と城嗣の2人を見た。
             「どうやら2人組はあそこで宝石を盗んで逃げる途中だったらしいわ。」
             「それでどっちに逃げた?」
             「うーん、あっちの方に・・。バンに乗って行ったような・・」
             「おい、しっかり見てろよ。」
             「だってとっさの事だったんだもん・・。」
             「それにしても何故華音ちゃんを?」
             「・・・ごめんなさい、私が目を離した隙に・・。」
             佳美はちらと城嗣を見上げた。彼は何も言わず腕を組んでいる。彼女は
            あちゃーと心の中で思った。
             「・・何か聞いているかもしれないな。」
             「あいつらに聞くのか?どうもいけ好かない野郎だ、俺たちに話すもん
             か。」
             しかし健一は店先に立っている刑事たちに近づいた。後の3人も付いて
            行った。
             「犯人の行き場所は分かりましたか。」
             「・・なぜ、お前らがここにいる?交番で大人しくしてろ。」
             「たまたま通りかかったんですよ。気にしないでください。」
             「ふん。お前らが絡むとややこしくなるから、帰れ。」
             「ちぇ、相変わらずイヤな野郎だぜ。」
             しかし刑事たちは踵を返し、さっさと中へ入ってしまった。
             「ほら見ろ、健。あいつらに聞いても無駄だ。」
             あの刑事たちは自分たちをどういうわけか目の敵にしていつもつっかかっ
            てくる。他の警官たちとは普通に話したりするのだが、どうも彼らとは馬が
            合わないのだ。暴れん坊な自分たちを疎ましく思っているのか。きっとすぐ
            に首を突っ込んで縄張りを荒らされたくないのだ。





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