犯人たちはある波止場の近くの古びた倉庫の中にいた。
彼らは今日の戦利品を確認するように袋から慎重に取り出し、眺めていた。
華音は縛られて座らされていたが、じっと大人しくしていた。幼いなりに
警官の娘としてしっかり周りの状況を把握しているようだった。
やがて彼らは宝石を袋の中に入れた。
「ところで、どうするよ、あの子。とっさに連れて来ちまったけどさ・・。」
「そうだなあ・・・そうだ。あの子の服見ろ。きっと金持ちの子供だぞ。」
「そっか。親から金をぶんどる、というわけか。」
「そう言う事。」
そして男達は華音のところに来ると、しゃがんでなるたけ優しく声をかけた。
「なあ、お嬢ちゃん。おうちの人と話したいんだけど、番号教えてくれるか
な?」
「・・・・おうち・・?パパの電話なら知ってる。」
「そうかー、じゃあ、パパの電話番号教えて?」
健一たちと宝石店の方を見つめていた城嗣は、携帯が鳴ったので耳に当てた。
「はい。浅倉ですが。」
『お前の娘を預かっている。』
「・・何?」
城嗣は振り返った健一にこくんとうなづいた。
『返して欲しくば、現金1千万用意しろ。』
「ふん、1千万か。大きく出たな。」
『いいか、1時間以内だ。』
「で?娘は無事なのか?声を聞かせろ。要求はそれから飲む。」
「・・あ、ああ。分かった。」
男はもう一人に言った。
「・・・何だかすげえ偉そうな感じがするんだが・・大丈夫かな。」
『早くしねえか!』
「は、はい。」
男は慌てて華音に携帯を近づけた。
「ほら、パパだぞ。」
「パパー。」
『華音、大丈夫か?』
娘に変わったとたん、その声は優しくなった。
『必ず助けに行くからな。それまで静かにしてるんだぞ。』
「うん・・・パパ、早く来てね。」
男は携帯を自分に当てた。
「これでいいか?」
『ああ、で?どこに行けばいい?ちゃんと言えよ。ウソ言うんじゃねえぞ。』
「・・わ、わかった・・・」
男は辺りを見渡した。遠くで船の汽笛が聞こえる。空にはカモメが多数飛ん
でいた。
「大通り近くの港だ。そこの1番倉庫にいる。」
『港だな。』
先方が切ったので、男も切った。
「・・・・おい、大丈夫だろうなあ。ヤクザか何かだったらー」
「まさか。」
男達はこの子の父親が妙に落ち着いた声をしていたのを思い出し、もしかし
たらどこかの組の関係者、最悪組長かもしれんと勝手に考えを巡らせた。
実際、それよりも遥かに怖いかもしれない。
「よし、行こう。きっとあの強盗犯だ。」
「まさか警官の子を攫(さら)って来たなんてあいつらも夢にも思わんだろ
うな。」
健一は笑った。
2人はパトカーに乗り込み、走らせると、佳美たちも白バイで追いかけた。
男達は埠頭の倉庫でじっとしていた。先ほどの勢いはない。彼らはうってか
わって子供の親が来るのを恐れていた。形勢は逆転してしまったようだ。どん
な恐ろしい男が姿を現すのだろう。彼らは難いの大きい強面(これは合ってい
た)の大男を想像して震え上がった。
なので、車の止まる音が聞こえると、びくっとして顔を上げた。
「行くか。」
2人は度胸を決めて外へ出て、慌てて戻った。
「・・・け、警官じゃねえかよ。」
「なぜ、ここに?こいつの親父じゃねえのか?」
すると華音はぼそっと言った。
「・・・かのんのパパ、お巡りさん。」
「・・・・・・。」
健一たちは手を挙げて出て来た2人の男を見つめた。
「物わかりがいいじゃないか。」
佳美と美香は倉庫の中に向かった。
健一は手錠を掛けながら城嗣に言った。
「お前の脅しが効いたんだな。」
「ふん。」
「パパー。」
城嗣は駆けて来た華音を見るとしゃがみ、彼女を抱きしめた。そして自分に
しがみついている彼女を抱き上げた。
「華音、偉かったな。お前のお手柄だ。」
城嗣はそう言って華音に額にキスをした。華音はキャ、キャ、と嬉しそうに
笑みを浮かべて彼の首に抱きついた。
健一はやって来た別のパトカーに犯人たちを預け、自分たちも乗り込んだ。
「一件落着!」
2人は顔を見合わせた。