〜黄金の翼エピソード4 心を開いた家出少女〜
静か初秋の夜、一人の4、50代の女性が疲れ切った様子で交番に駆け込んで来た。
見るからに殴られた跡があり、彼女は入るなりよろよろと床に座り込んでしまった。
健一は慌てて駆け寄った。
「大丈夫ですか?誰かに襲われたのですか?」
「・・・・お巡りさん・・お願いです。娘を・・・娘を探してください・・」
「娘さん?」
「・・・・・・悪い友達に誘われて・・いつも夜遅くまで遊んでいるんです。」
「不良仲間がいるのか。」
健一は城嗣を見上げた。
「今日も・・・出かけようとするので止めたんですけど・・・。数人やってきて娘
を連れて行ってしまったんです。」
「その時に殴られたんですね。」
女性はうなずいた。
「とくかく手当をしましょう。」
健一は彼女をカウンターの奥へ連れて行った。
数日後、パトロールをしていた健一と城嗣はちょっと道を外れたところに出て足を
止めた。数人の男女がサラリーマンらしき人を殴る蹴るの暴行を加えている。
「酷いな、一人相手に。」
「あれじゃ死んじまうぜ。」
2人は駆け出し、男性を取り巻く若者達を囲み、殴ったり地面に投げ飛ばした。
「何すんだよー、お巡りのくせに殴ったな!」
「うるさい、お前らみたいに卑怯なマネをしないだけだ。」
そのぐれた連中の中に女子が3人いた。そのうち2人は赤や緑に髪を染め、いかに
も不良っぽかったが、もう一人は割と普通に見えた。
彼らは悪態をついて去って行ってしまったが、とりあえず襲われていた男性を介抱
する事にした。
「歩けますか?」
「・・・・大丈夫です・・・。ありがとうございます。」
「とんだ災難でしたね。」
「いやー、ここは不良が出てカツアゲするから気をつけろって聞いてたんですけど
ね。仕事の都合でどうしても通らなちゃいけなかったんです。本当にありがとうご
ざいます。それじゃ、仕事に行きますんで。」
「お気をつけて。」
男性は頭を下げ、駆けて行った。大きな時間のロスだったに違いない。
「あいつら、またどこかで同じ事やるんじゃねえのか?」
「ここを拠点にしているらしいからきっと現れる。」
あれから例の母親からたびたび相談されたが、もう家を出て行ったきり帰ってこな
いらしい。
彼女はもうすっかりやつれて見る影もなかった。健一はあの不良どもも何とかした
いとは思ったが女性の家出した少女を探すのが先決だと考えた。
そこへ純子がやってきた。
「あら、一人なの?」
「ジョーの行き先は分かってる。多分あそこだ。」
「健が行かないのって珍しいわね。いつも一緒なのに。また意見の行き違い?」
健一は笑った。
「違うよ、今回は同じだ。ただ、ある人と連絡を取り合わなくちゃいけないんで
ね。」
「ある人?」
「うん。」
寂れた通りを歩いていた城嗣は、植え込みの近くでうずくまるように座り込んでい
る一人の少女に目を留めた。
(・・あのグループにいたな。)
城嗣は彼女に近づいた。少女は顔を上げるなり逃げようとしたが、彼は彼女の腕を
掴んだ。
「痛いっ、離してよっ!大声出すからね!」
城嗣はふんと笑った。
「大声出すって誰を呼ぶんだ?仲間か?」
「ふんっ」
城嗣は少女の腕を離した。
「あいつらと一緒にいて楽しいのか?学校は?」
「・・・・・行ってない。ずっと行ってない。」
「家は。」
「・・・・・出て来た。」
「・・・・・・。」
城嗣はふと数日前に来た女性を思い出した。
「・・・お前のお袋さん、心配してるぞ。」
「何でうちのお母さん、知ってるの。」
「交番に来た。」
「・・・・・。」
「何があったのが知らんが、心配かけちゃだめだ。」
「ふんっ、うるさいよ。家に帰ったって楽しくないもん!お母さん、いつもいつも
うるさいし。いなくなればいいのに!」
城嗣は少女の頬を平手打ちした。
「痛っ」
「ふざけるな!」
少女はキッと彼を見上げた。
「いなくなれ、なんて言うもんじゃない!」
「何さ、私の気持ちなんか分からないくせに。」
「ああ、分からないな。俺の親は2人とも8歳の時に死んだから。」
「・・・・・・えっ・・・・」
「お前みたいに反抗したくても出来ないし話も出来ない。(しゃがむ)・・・・
でもお前はこれからも一緒にいて言いたい事も言えるし、甘える事だって出来る
だろ。・・・・いいか、人生は1度きりだ。その1度きりの人生をこんな荒くれた
事で狂わせていいのか?親を悲しませるな。自分のためにも、もうやめろ。」
「・・・・・・。」
少女は顔を上げ、何か言おうとしたが、あっという表情をした。
「・・・・あの連中が・・・・」
城嗣は振り返らずに鼻で笑った。
「来たか。」