ーエピソード9 疑念 ー
交番奥で何やら熱心に分厚いファイルをめくっている健一がいた。
彼は手を止め、じっと見ていたかと思うと、先へ進み、また戻るというのを繰り返し
ていた。ので、そんな彼を見ていた城嗣は近づいて聞いた。
「何見てるんだ?」
すると健一は書類から目を離すことなく答えた。
「一連の事件の内容を事細かく書き記したファイルだ」
「よく手に入ったな」
「ジュンに資料室へ忍ばせて複写してもらったんだ」
「ふーん」
まああいつは署内にいるし、頼まれりゃ健のためなら張り切ってやるだろうと城嗣は
思った。
「あいつときたら、そんなの自分でやれーっなんて言ってやがる。ったく、反抗的だ
な」
あらら。
「それで・・見てみてわかったんだが・・・。狙われた相手は皆、マフィアか闇の取
引をしている連中ばかりなんだ」
城嗣は眉をひそめた。
「・・・妙だな」
「ああ」
「彼女たちはそいつらを調べ上げた上で犯行を実行しているということだな。大した
調査能力だぜ」
「感心している場合じゃないぞ。おかげで向こう(署)はてんわやんわだ」
「え?」
その署内、捜査一課では電話の対応に追われる吉羽たちの姿があった。
「・・あー、ですからねー。はいはい、そうですけどね、人を殺しているんですよ、
ええ、だけどー・・・いや、そうは言ってませんよ・・」
そうこうして5分後にやっと終わったのか、受話器を置いて吉羽ははあ~と大きなた
め息をついた。
隣にいた田中も疲労の顔をしていた。
「ったく、マスコミの奴らが変なこと書くから!あいつらは人の仕事の邪魔ばかりし
やがる」
「先輩、無差別の殺人ではなくて我らの敵をやっつけてくれる、ということになれば
こうなりますよ」
「そりゃあな、相手がワルだから皆喝采だろうよ。でもな、人殺しとは別問題だ
ろ。」
「そんなこと、一般の市民たちには関係ないですよ。ヒーローですからね。・・あ、
ヒロインか」
「・・くそう・・・」
Black Widowの狙う相手が、闇の証人や暴力団関係者だと世間に知られたため、署には
連日のように市民から擁護の懇願に関する電話が多くなった。中には、どうか見逃して
やってくれ、だの許してくれ、というのようなのもあった。おまけにどうやら孤児院へ
の謎の現金投入事件が彼女たちの仕業だという噂も広まり、余計にその声が大きくなっ
ていった。
「ふん、アルセーヌ・ルパンの真似事か?それともジャンヌ・ダルクの再来のつもり
か?ジャンヌはな、処刑されたんだぞ」
「鼠小僧・・」
すると奥から声がした。
「おーい、電話出てくれーっ」
吉羽はキッと振り向いた。
「出ません!!」