ー エピソード6 救世主? ー
捜査一課では慌ただしく署員が動いていた。事件が起きたからだ。それももう
終ったと思われていた凄惨な事件が再発した。
新聞を広げ、記事を目で追っていた吉羽刑事はそれを畳んで放り投げてしまっ
た。ので、田中刑事は慌ててそれを拾い上げたが、吉羽がじっと1点を見据えたま
ま動かないのを見て恐る恐る声を掛けた。
「あのー・・・先輩・・・」
「あ?」
「大丈夫ですか?」
「何がだ」
「何がって・・・」
「ああ・・事件だ」
吉羽は立ち上がった。
「昔の話ではなくなった」
そしてこう言った。
「また署長の通達が来るぞ」
「おい、また通報だぞ!」
「今度はどこだ!」
2人は振り返った。
「また資産家が狙われたらしい」
無線を聞いていた健一は、パトカーの点検をしている城嗣のところへやってき
た。
城嗣は手を休めずに繰り返した。
「資産家が狙われた?」
「ああ。何でも大きな取引をしていた会社社長らしい」
「ふーん」
「しかし・・」健一は腕を組んだ。「何だってそんな大金を奪うんだ?みな金庫
が空になるまでごっそりやられるらしい」
「金によほど執着があるんだな。子供時代はろくに買ってもらえなかったと
か?」
「そうかなあ・・ただ楽しんでいるだけじゃないのか?だってもう十分だろ」
「だとしたら」城嗣は車の下から出てきて立ち上がった。「随分とあまり趣味の
良ろしくない遊びをしているようだな、このお嬢さんがたは」
健一は入ってきた無線に耳を傾けた。
「また殺されのか?」
「いや・・・孤児院に不審な封筒が投げ込まれていたって」
「え?」
捜査一課はその封筒を念入りに調べていた。それは厚さが1cm以上あり、かなり
重い。
「よし、慎重に開けろよ」
すると田中はこう呟いた。
「こんなの鑑識に回せばいいのに・・こんなところで爆発したらどうするんです
か?」
「爆発するとは限らんだろうが」
「でも先輩ー」
「開いたぞ!」
すると、2人はダッシュして壁に向かって走ったが、何の音もしなかったので振
り向いた。
職員達は集まってこりゃあすげえとか言っている。
2人は顔を見合わせ、そっと群衆に近づいた。
「せ、先輩!見ましたか!」
「み、見た、見た」
彼らは目の前の光景に思わずそんな会話を口にした。テーブルの上にあったの
は、札束だったからだ。100万はあるだろう。
「封筒の中身は大金だ。この金はどこの金か、一体どこの誰が入れたのか」
捜査一課は早速調査を始めた。