title_banner
         


                          ー エピソード5 消えた財宝 ー





                 郊外奥にその屋敷はあった。
                 うっそうと茂る森の中、その屋敷周りの広い庭は手入れが行き届いており、立派
                な邸宅の佇まいの住人の性格を伺わせる。
                 やがて1人のエプロン姿の女性が出てきた。そして彼女は長い石の渡りを歩いて
                門近くにある郵便受けを鍵で開け、大量の手紙を出した。
                 彼女はそれらを確認するように宛名を見ていたが、ある便せんを手にして止まっ
                た。
                 そして何かを見ると、辺りを見渡し、足早に中へ入って行った。

                 エプロン姿の女性はある部屋に向かった。そしてノックをし、中から「お入り」
                という声を聞いてからドアを開けた。
                 窓際には肘掛け椅子に腰掛け、優雅にパイプを揺らす大柄の男がいた。
                 「旦那様」
                 旦那と呼ばれたその男は窓に向かったまま口を開いた。
                 「なんだね」
                 「こんなものが」
                 「ん?」
                 男は椅子ごと振り返って彼女から便せんを受け取った。そして顔をしかめた。表
                に大きな黒い蜘蛛の絵が描かれていたからだ。なので思わずこう大声を上げた。
                 「なんじゃあ、こりゃあ」
                 「『Black Widow(ブラック・ウィドウ)』ですわ」
                 「・・ブラック・ウィドウ?」
                 「かつてこの国で世間をにぎわせた殺人団です。それも女ばかりの」
                 「女ばかりの殺人団だと?はははは、バカを言いなさい。女なんかに何が出来
                 る。力もないくせに男のまねごとばかりしおって」
                 男はそう言って笑ったが、女中は真剣な顔つきのままだ。
                 「旦那様、女だからって油断は禁物でございますよ」
                 そこに呼び鈴が鳴った。
                 「ああ、旦那様、お約束の方が見えられたようです」
                 「そうか、居間へお通ししなさい」
                 やってきたのは、ウェーブの掛かった黒いロングヘアのすらりとした女性だっ
                た。
                 彼女は居間へ通されると、言われるままにソファに腰掛けた。そして手鏡を取り
                出すと、写った自分を見たが、視線をぐるりと部屋の隅々に移動させた。
                 「・・この部屋にはなさそうだな」
                 「おお、ようこそ。」
                 女性は入ってきた男を見ると、そっと手鏡をバッグにしまった。
                 「君かね、家政婦の案内を見て応募したと。だが・・」男は相手をじろじろ見
                 た。「君みたいなのに勤まるかねえ。」
                 「体力には自信があります。日々鍛えてますから」
                 「ほう」
                 「それに」女は立ち上がり、主人に近づいた。「私だったらきっと用心棒になり
                 ますよ」
                 そういうと、彼女はぐいっと男の腕を掴み、ひねった。
                 「ぐおおおおっ」
                 「ね?」
                 女は外すと、ふふんと笑った。
                 「・・「Black Widow」というのを聞いた事は?」
                 「・あ、ああ・・昔の殺人狂だろう?今はムショだと聞いている」
                 「そう、昔はね。でも、脱走した。最近ね。だから・・ご主人様をお守りしなく
                 ては」
                 「ああ、ああ・・それは頼もしいね・・」
                 女が離れたので男はほっとして腕をさすった。







                                next