「君みたいな人がいてくれたら安心だろうね。ちょっと・・乱暴なところはある
が」
「ええ、安心してください。そんな輩が来てもご主人様は大丈夫。狙われる事はな
いですから。・・・ええ、永遠にね」
女はそう言うと、隠し持っていたナイフを振りかざし、男に抱きついた。
「ぐっぐぐっぐ・・・」
男は悶え、その場に倒れた。女は床に倒れた男を見下ろし、ナイフについた血を拭
くと、それに包んでまたしまった。
そこへ女中が入ってきた。
女と目が合った女中はポケットから鍵を出し、彼女に見せた。女はうなずくと、彼
女らは別の部屋に向かった。
そして大きな金庫の前に来ると、女中は鍵を手慣れた手付きで開け、扉を開いた。
女は目を見張った。
「すごい大量だね」
そこには何列にも積まれた札束、さらには小さな箱に入った小銭、そして宝石の数
々が所狭しと置かれていた。
「たいしたもんだ、これだけ集めるなんて」
「みな、裏金だよ。汚れてる」
「それじゃ集めよう。長居は無用だ」
女達はもってきたスーツケース等にそれらを全ていれ、部屋を後にした。
「ああ、そうだ、お礼を言わなくちゃ」
そういうと、女中に扮していた女は倒れている男のところへやってくると、屈んで
額にキスをし、そして胸の上に1枚のカードを置いた。
「お世話になりました。楽しい事してくれてありがとう」
「(笑う)ふっ、あんたも罪な女だね」
「それじゃ、戻ろう」
2人は屋敷から出ると、外れに隠して止めてあった、黒い車に乗ってその場をあと
にした。
それからしばらくして数台のパトカーがサイレンをけたたましく鳴らしてやってき
た。
通報が入ったからだ。声の主は女だったが、明らかに犯人からだ。
「くそう、やりやがったな」
吉羽刑事はカリカリしながら車から降りると、すたすたと門から入った。ので、遅
れを取った形になった田中刑事は慌てて彼の後に続いた。
すでに部屋の場所には非常線が張られ、物々しい雰囲気が漂っている。
中へ入った2人は顔をしかめた。
「胸を凶器でひと突き・・・手法としてはよくある手だな」
吉羽は呟くように死体の周りを歩いた。
「先輩!」
「何だ」
「金庫から何かが盗まれたようです」
「金庫か」
別の部屋に向かった2人は観音開きになったその大きな金庫の前にやってきた。
「この家で犯人を見た人は?」
「確か・・殺されたここの主人以外に住人はいなかったらしいですよ」
「一人暮らしか」
「あ、そういえば、近くの人によると、女中が1人いたらしいです」
「女中?その人に聞けば何か分かるかもしれんぞ、犯人を見たかも」
「それが・・誰もいないんです」
「そんなバカな」
「どこ行った?」
吉羽はあ、という顔をした。
「・・おい、女中ってのは、女だな」
「先輩、何言ってるんです?」田中はそう言って目を見張った。「・・あっ」
2人は顔を見合わせた。
「まさか」