ー エピソード4 甚平、話し相手になる ー
大槻巡査は大きくため息をついた。そして時々ガラス越しに外へ目を遣り、ちょっと
落ち着かない表情をした。
やがて1人の子供がやってきたので巡査は立ち上がってドアを開けた。
「あれえ、お巡りさん誰?・・・ここでいいんだよな・・」
「坊や、迷子になったのかな?名前と住所はー」
「ああ、オイラ・・じゃない、僕は甚平と言います。住所は・・言えないけど・・・
あの・・お巡りさん・・・」
「ん?」
「ここにいた2人のお巡りさん達は?もしかして飛ばされたんですか?」
大槻巡査は顔をほころばせた。
「ううん、警察署でお仕事してるよ。でももうすぐ戻ってくると思う。坊やはあの人
達と知り合いなんだね」
「知り合いも何も、仲間ーいや、知り合いです」
「そうなんだ。」
甚平は慣れたように椅子を奥から引っ張ってきて腰掛けた。巡査が何かジュースで
も・・・と冷蔵庫を開けると、おかまいなく、と断った。
「勝手に飲むとアニキたち五月蝿いからね」
「はは。アニキって呼んでるの?仲良いんだね」
「まあね。」甚平は得意そうに鼻を鳴らした。「ところで・・お巡りさんは留守番な
の?アニキたち何かやったんですか?」
「違うよ。わたしは新任で、ここを引き継ぐんだ」
「え?本当?」
「うん。あれから1ヶ月経ったけど、彼らに教わりながらここの仕事をしているん
だ。」
「ふ~ん・・先生ってわけか。でもさ、厳しいだろ?どっちかというとさ、ジョーの
方が怒りっぽいけど、健のアニキだって怒ると怖いからね。大人しくしてた方がいい
よ」
「確かに厳しいけど、彼らは真っ当な事しか言わないから信頼できるよ」
甚平は目をパチパチさせた。
「・・ふーん・・それってオイラがいるから言ってんじゃないの?ホント?」
大槻巡査はうなずいた。
「へえ、アニキはともかくジョーのアニキがねえ・・」
甚平は、ふあ~と伸びをしたが、ふとカウンター隅に目を遣ると、何かを手にした。
「あれえ、何のカードかな。わあ、すげえ、蜘蛛だ」
すると大槻巡査はえっと振り向いて、甚平の手にした”それ”を見たとたん、カウンター
の下に潜り込んだ。
「ひいい~っ!」
「うわ、どうしたの?ねえ?」
巡査はすっかり頭を抱えて震えている。甚平はカードを見てそれから彼を見てははあ
という表情をした。そしてそれを裏返した。
「分かったよ、お巡りさん。ほら、もう大丈夫だって」
「・・・はあ・・・びっくりした」
「びっくりしたのはこっちだよ。(・・・大丈夫かな、この人)」
「・・・・だ、誰かの落とし物かな。子供は好きだからね、そういうの・・・・」
巡査は隅っこで小さくなったままそう言った。
甚平はカードを再び手にした。
「うーん・・・いくら子供でもこれは・・・ね。」
そしてぽいっとゴミ箱へ放り投げた。
「きっと誰かがいたずらしたんだよ。」
甚平はあははと笑った。