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                         ー エピソード3 新人 ー





              交番に入ってきた純子はキョロキョロと中を見渡した。
              カウンター近くには健一がいたのだが、まるで彼が見えないかのように奥へ行きそうに
             なった。
              ので健一は彼女に声を掛けた。
              「おい、ジュン。何捜してんだよ」
              純子はやっと健一の方を向いた。
              「何って、ジョー」彼女はそう言いかけて、健一の前に手のひらを向けた。「やっぱり
              言うわよ。だって、貴方だけって変だもん」
              「・・・」
              健一は頭を振った。
              「ジョーはどこに行ったの?」
              「あいつは、本部だ。何か辞令があったらしい」
              「へえ、そう。もしかしたらとうとう昇進しちゃうとか」
              「まさか」
              健一は即座に否定した。あいつが昇進なんて有り得ない。どうみてもそういう感じじゃ
             ない。一歩間違えればチンピラだからだ。
              「まあでも良かったな、俺。ずっとこのままでいいよ。下手に格が上がったらそうやっ
              て何かあると呼び出しを受けなきゃいけないんだからな。」
              「ふん、おめえは元リーダーだろ。情けねえな」
              振り向くと、入り口に腕組んで寄りかかっている城嗣がいた。やはり見た目チンピラ
             だ。
              「お帰り、ジョー」
              「何の話しだったんだ?部長の自慢話とか仲間の不祥事・・とか」
              「不祥事?ああ、あったな。自転車でひったくり犯を追っていたらどこかに拳銃を落と
              したとか、機密事項の詰まった書類を電車の中に忘れたとか。・・くだらねえ」
              「なかなかなくならないわね」
              「実は、新人教育を頼まれた」
              「「へ?」」
              健一と純子は同時に声を出した。思いも寄らない事だったのか声が裏返った。
              「いずれは交番に新人を配置して入れ替えをするらしい。で、そいつに引き継げるよう
              しっかり教育してくれってさ」
              「ふーん。やっぱり俺達を引き上げたいんだな。・・あまり好きくないんだがなあ、署
              の中で働くのは」
              「あら、私は大歓迎よ。だって何かとここに来なきゃいけないんだもの。同じ建物内
              だったら行き来が楽になるわ。ここに来るのだって、用事を作って来てんのよ。怪しま
              れないようにするの大変よ」
              健一と城嗣は、別に気にしてないし、そんなことしてまで来る事ないじゃん、と思って
             いたが、黙っていた。余計な事を言って倍返ってくるに決まってる。(第一そんな事言っ
             たら、乙女の気持ちが分からないなんて!となるわけだが・・)
              全く持って女の子はやりにくい・・。

              「ねえ、その新人さんてどんな人かしら。男性?」
              「さあね。きっと男だろうな」
              「そう」
              「ジュン、若い男と聞いて嬉しいのか?まったく、女は」
              純子は健一を睨んだ。
              「まあ、健のバカっ。私はそんな女じゃないわよっ」
              健一はええ?という顔をして城嗣を見たが、彼はふんと顔を背けた。
              「ホントにバカだ」






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