ー エピソード20 ラスト・ケージ(後編) ー
署長はイライラしたように指で椅子の肘掛に小刻みに当てていた。
副署長はそれをチラチラ見て目で女たちを刺激しないよう伝えようとしたが、署長は
きっと彼を見て耳を貸すよう合図した。
「おい、あいつらには連絡したんだろうな」
「あいつら、と申しますと?」
署長は苦虫を潰したような顔をした。
「わからんかっ」
「ああ・・」副署長はそうだと顔をしたが、そっと署長に言った。「あいにく捜一と仲
が悪く・・奴らはあまり好きくないようで」
「こんな時に喧嘩をしている場合か」
「知りませんよ」
「もうあいつらに頼むしかないだろ」
「はあ・・・」
副署長は思った。確かに彼らに頼めば何とかなるだろう。だが、どうやって?
その頃城嗣はそっと辺りをうかがい廊下を慎重に歩を進めていた。そしてじっと奥を見
つめ、まっすぐにその部屋へと向かった。
捜査一課。
携帯を手にした吉羽は、舌打ちをして切った。
「・・くそっ」
田中は不審な顔をして彼を見た。
「どうしたんです?」
「電源を切ってやがる。何やってんだ、ったく・・・。・・・しょーがねえなあ。・・
不本意だが、奴に連絡取ってみるか」
城嗣は部屋のドアノブに手を伸ばした。そして触れたところで胸元の携帯が鳴った。
彼は慌てて取り出し、切った。
「・・・こんな時にかけてくんなっ!」
「お前もかっ」
吉羽はまた切った。
「鷲尾先輩も、浅倉先輩も一体何やってるんですかね」
「知るかっ。・・・副署長が連絡しろって言うから掛けているのに。どこをほっつき歩
いているんだ、怒られても知らんぞ!」
「本当ですよ、いつもならしゃしゃり出てくるくせに」
城嗣は息を殺してじっとしていた。
案の定、中の女の一人が携帯の音を察知してゆっくりと近づいてきた。そしてドアに手
をかけ、少しだけ開けかけたが、突然廊下側から手が伸び、彼女の腕を掴んだ。
女は目を見張った。城嗣が顔を出したからだ。
「・・・ああっ、お、お前は!」
「捕まえたぜ、お嬢さん」
「は、離せっ」
すると、署長の近くで人質らを抑えている女が叫んだ。
「引きずりこめっ」
その声に城嗣に腕を掴まれていた女は彼を引っ張って中へ入れた。そしてドアを脚で
蹴って閉めた。
署長は城嗣を見ると身を乗り出した。
「来てくれたのか。(副署長に)ちゃんと呼んでくれたんだな」
「あ、はい、当然です、署長・・・」
副署長は愛想笑いをした。
女は城嗣を引きずり込むと同時に彼の持っていた銃をも蹴落とした。彼はその手際の良
さに半ば感心していた。
彼女は銃を彼の喉笛に当ててそして言った。
「何もするんじゃないよ。こいつらも一緒に道連れにしてやるからね」
「・・・」
署長のそばにいた女は薄ら笑いをした。
「さあ、署長さん。どうする?あんたの優秀な部下も失うことになるんだよ。・・早く
しな」
署長は副署長を見遣った。
「・・しょ、署長・・・!」
「人質がかかってるんだ、仕方ないだろ・・」
「し、しかし・・」
と、突然窓ガラスが割れ、誰かが飛び込んできた。健一と純子だ。2人はガラスの破片
が散らばる床に着地するが平然とした表情で立ち上がった。
「要求を飲むことはありませんよ、署長」
しかし署長らは目の前の出来事を整理するのに時間がかかっているようだ。目を白黒さ
せている。
「・・お、お前達・・・ど、どこからー」
「・・ここって7階・・・」
健一はニヤリと笑った。
「とうっ!」
その隙に城嗣は女の手から銃を蹴落とし、それは床を滑って遥か遠くまで行った。
「ああっ」
「こいつっ・・・あっ」
女は純子の手刀を受け、人質を離した。そしてさらに攻撃をかけようとした彼女を振り
払い、もう一人とともに廊下へ出て行った。
「待てっ」
「ジュン、人質を頼む。あとで来い」
「わかったわ、2人とも気をつけてね」