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                        ー エピソード18 毒蜘蛛退治 ー




              署から出ようとした城嗣は何かを感じ自動ドア寸前で横へずれて身を潜めた。
              深々と帽子を被り黒いワンピースを着ている女が入り口付近で中を伺っている。女はや
             がて踵を返し建物から離れた。
              城嗣は外へ出たが、すでに女は車で立ち去るところだった。


              佳美は書類の入ったファイルを抱え、長い廊下を歩いていた。
              全く、次々から事件やら事故が起きて、調書だの通知だの毎日のように作成、おとなし
             くしててほしいもんだわ。
              でも誰もがいい子ちゃんだったら、私たちすることがなくて仕事にあぶれちゃうか。
              彼女はそんなことを考えていたので通り過ぎる署員たちに気にも留めなかったが、さっ
             と通り過ぎた相手を見て顔を向けた。
              「ねえ、美香!美香じゃないの」
              「え?ああ、佳美か・・」
              「何慌ててんのよ・・」
              「あ・・また今度ね」
              美香はそのまま行ってしまい、佳美は憮然とした。
              「何よお、美香ったら」
              だが美香だけじゃなかった。誰ともなく何だかせわしない。


              「アジトを突き止めた?」
              健一は捜一からの電話を受けてそう言った。
              『そうですよ。これから我々で突入するところです』
              「そうか・・・」
              『ああ、鷲尾さん』吉羽はこう続けた。『お分かりでしょうが、くれぐれも邪魔はしな
              いでくださいね、邪魔を』
              吉羽は”邪魔”という言葉を何度も大きめに言った。
              『ではまた』
              そこで電話が切れた。健一は受話器を置き、ちっと舌打ちをした。
              「・・・邪険にしやがって」
              健一はじっと壁を見つめた。
              「・・・アジト・・この前のは大破したはずじゃ・・?」
              リサという女性(本名はアリーチェという城嗣の幼馴染だった)を救い出したのち、建
             物は彼女たちの仕掛けた爆弾で吹っ飛んでもう跡形も無くなった。
              それにー。
              「そう簡単にわかるものなのか」
              健一は交番を後にした。そして止めてあったパトカーに乗り込み、携帯を取り出した。
              「・・・ああ、吉羽さん。・・・聞いてくれ。なあ、罠かもしれないぞ。・・・・奴ら
              がそう簡単に尻尾を出すとは思えん。・・・だからー」
              健一はくそっという表情をして携帯を閉じた。
              と、窓をトントンと叩く音がしたので見ると、そこに純子が立っていた。
              健一はドアを開けた。
              「どうしたのよ、今からドライブ?」
              健一はぐっとハンドルを握った。
              「・・そうだな」
              「運転手さんは?」
              「非番だ」
              「そう」
              パトカーは走り出した。


              吉羽たちはとある荒地に来ていた。そこは相当荒れており、ここ数年誰も足を踏み入れ
             た形跡もない。が、はるか遠くには朽ちた建物があり、いかにもという雰囲気を醸し出し
             ていた。
              「ふん、前までいた場所がもうないことは先刻承知だ。敵さんも馬鹿じゃない」
              「先輩・・本当にあれがそうなんですかね・・・?」
              「いいか、野生の生き物というのは常に場所を変える。それは敵の目を撹乱するため
              だ。同じところにいたんじゃ、どうぞ私を食べてください、と言っているようなもの
               だ」
              「それで?」
              「およそ住処ではない場所を選び、敵を欺く、というわけさ」
              田中は感心したが、ん?という顔をした。
              「欺く・・・もしかして・・」
              「よし、突破だ!俺に続け!」
              吉羽の合図で捜一のメンバーたちは一斉に建物に向かって走り出した。
              「え、ちょっと待ってくださいよ!先輩!やばいですよ!」
              彼らは建物に近づくと、しばらく鳴りを潜めて様子を伺った。
              「よし!」
              吉羽がドアを蹴るとそれは最も簡単に外れ、一気に流れ込んだ。が、その瞬間だ。
              「うわあ!」
              床が抜け、皆一斉に地下へと突き落とされた。

              と同時にパトカーが近くに止まった。
              健一と純子は降りて歩いてきた。
              「一体どうしたかな」
              「無事かしらね」
              健一は携帯を確認した。
              「生体反応はある。大丈夫だ」
              2人は開いているドアから覗き込んだ。すると頭を押さえてゆっくりと起き上がった吉
             羽と目があったので、健一は声をかけた。
              「大丈夫ですか、吉羽さん」
              「・・・鷲尾・・さん?どうしてここが?」
              「(笑う)野生の勘・・いや、猛禽類の本能、かな」
              「・・は?・・猛禽類?」
              健一は笑って離れた。
              「こら!助けんのかっ!」
              「応援頼んでおきましたよ」
              健一と純子はパトカーに戻った。
              「健ったら、何か細工したのね」
              「いや、何も。携帯であいつに電話しただけだ」


              寮から出た城嗣はすぐ近くにある自動販売機の前に来た。
              「ったく、華音のやつ、人をこき使いやがって」
              そして飲み物を取り出し口から出すと戻ろうとしたが、立ち止まった。
              (・・・気のせいか)
              城嗣はそう思い直したが入り口にまで歩いたところでいきなり羽交締めにされた。
              「・・・!誰だ!」
              しかし相手を振りほどこうとした彼だったが、何かを嗅がされ、気を失ってしまった。
              数人が彼を抱え、そして車に乗せ発車して去った。彼のいた場所には華音のために買っ
             たペットボトルのジュースが転がった。







                        

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