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                       ー エピソード17  狩り、再び ー





              夜静まった頃。
              町はずれにある警察の男子寮に壁伝いに忍び込む影があった。
              その一角に、吉羽刑事の暮らす部屋があったのだが、ぐっすり寝ていた彼はやがて鼻を
             動かし、ぼんやりと目を開いた。
              「・・・・ん・・?・・・なんだか臭うぞ・・・」
              そして目だけ動かしたが、何やら爆発音がして悲鳴らしき声がした。
              「何だ!」
              吉羽は飛び起き、ドアを開けて愕然とした。奥の方で火の手が上がっていたのだ。
              「おい!大丈夫か!誰か怪我した人は?」
              すると煙の奥から声がした。
              「吉羽さん!こちらは大丈夫です!吉羽さんもご無事のようですね」
              「当たり前だ!・・・しかし、何だって・・」
              吉羽はああという顔をした。
              「・・奴らか」


              翌日署でそんな話をした吉羽だったが、田中が笑い出したのでムッとした。
              「・・・何で笑うんだっ」
              「・・・だ、だって・・・先輩が・・・狙われたですって?・・・・ひひひ・・・」
              「笑うなっての!(殴る)」
              「いてっ・・だって・・先輩が?きっと浅倉先輩を狙ったんですよお~・・・クク
              ク・・」
              「首の骨へし折られたいのかっ・・あいつはな、当直でいなかったんだよ」
              田中は涙を流しながら言った。
              「よく知ってますねえ」
              「当たり前だろ。いいか?あいつが心配だからな、なんて心優しい吉羽くんだろう」
              吉羽はまだ笑っている田中を無視し、携帯を取り出した。
              「・・・あー、浅倉警部補どの?・・・え?なんでもないですよー、元気で何よりで
              す、では」
              吉羽は携帯をさっさとしまうと、自席へ戻った。
              田中は呟いた。
              「本当に”黒い”よ、先輩は」
              田中も戻ってPCの電源を入れた。


              「どうした?」
              健一は、携帯を取り出してそして怒ったようにソファへ放り投げた城嗣を見て言った。
              「・・くそっ、あいつ・・首の骨へし折ってやる」
              そこへ大槻尚人巡査が入ってきた。そして2人に敬礼した。
              「ああ、大槻巡査。早かったね。まだいいのに」
              「いえ、家でじっとしているのも性に合わないので。先輩方、どうぞゆっくりしてくだ
              さい」
              城嗣は携帯を懐にしまって上着を取った。
              「健、お言葉に甘えようぜ」
              健一は笑った。
              「ああ、そうだな・・。じゃあ、巡査、あとは頼むよ」
              「はい」
              健一と城嗣は交番を後にした。
              残った巡査は調書のファイルを取り出し、目を通すとしまって当直日誌に書き込みを始
             めた。
              「午前8時半、と・・・」
              そこへコツン、コツンと戸を叩く音がした。巡査は顔を上げ、そこに一人の女性が立っ
             ているのを見た。
              「はい」
              巡査は日誌を閉じ、入り口へ歩いた。
              「どうかしましたか」
              彼はそう聞いた。というのは女性はひどくやつれてスカートの裾が破れかかっていたか
             らだ。
              「追われています」
              「中へ入って」
              「ありがとうございます・・」
              女性は巡査に促されるまま建物の中に入った。
              巡査はとりあえず椅子に座らせて落ち着くだろうと思い、水を持ってきた。
              「ここに辿り着けて良かったです・・」
              「暴漢か何かですか?」
              女性は目を閉じた。
              「ああ・・言いにくいのなら無理にとはー」
              「いえ・・大丈夫です。きっとどこかのチンピラですわ。ほら、よくあるひったくりで
              す」
              「何か盗まれたのですか?」
              「バッグを・・・」
              「そうですか・・。ここに犯人の特徴を覚えているだけでいいので書いていただいても
              いいですか?」
              巡査は用紙とペンを彼女に渡した。


              「あいつ、だんだん警官らしくなってきたんじゃねえか?」
              「そうだな・・・今の所・・70点ってとこか」
              城嗣は健一をちらと見て鼻で笑った。
              「鬼教官様だな」
              「人間、完璧なやつは皆無だよ。お前だって俺だってな。完璧じゃない」
              「はいはい」
              健一は笑った。
              2人は交番に向かったその足を止めた。一人の女性が出てきて、会釈をしてそして反対
             側に向かって歩いて行った。
              2人が中へ入ると大槻巡査が黙々と仕事をしている。
              彼はしばらくして顔を上げた。
              「ああ、おかえりなさい。もう交代の時間ですか?」
              健一は笑った。
              「いや、見に来たんだよ」
              「ええ?いやだなあ、信用ないんですか?もうあれから半年ですよ」
              健一と城嗣は顔を見合わせた。
              「いや、最近物騒だからね、注意してこの付近を見てて欲しいんだ」
              「見てるだけでいいんですか?」
              「そうだ、異常があったら教えてくれ。じゃあ、行くか、ジョー」
              「あ、ああ・・」
              城嗣はちょっと意表をついたような表情で健一について行った。









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