ー エピソード14 魔の触手 ー
交番に純子がやってきた。彼女はいつものように挨拶をしてコーヒーを口にした後、
こう切り出した。
「例の爆薬だけど」
健一と城嗣は彼女を向いた。
「結構殺傷力の強いものだわ。調合一つ違えばでビル1つはぶっ飛ぶわ。」
「へえ」
「そいつはすげえや」
2人のセリフは淡々としていたが、表情は険しかった。
「きっと犯人は手加減したのね。あれだけじゃ済まないはずよ」
「こんな街中じゃ派手にやる必要はあるまい。下手したら自分の身が危ないぞ」
「その通りね」
「・・・・・」
「大丈夫?ジョー。・・そうよね、一歩間違えればあなたは車ごと・・」
城嗣は視線を落としたが、窓から外を眺めた。パトカーがあった場所は下が少し黒焦
げになっている。昨夜はあれから鑑識やら刑事やらがわんさかやってきて検証を夜通し
行い、ちょっと違う雰囲気になっていた。
女たちは集まっていて黙っていた。
しばらくの沈黙の後、一人の女が言った。
「・・・うまくいかなかったのなら仕方ない。あいつは勘の鋭いヤツだからな。次の
手を打とう」
「ここはやはりあいつが確実にいるところを狙うしかない」
「今度の金曜日非番らしい。その夜は自室にいるはずだ。きっと子供も一緒だろう。
気がひけるが仕方ない」
リサはじっと視線をそらしていたが、ぐっと一点を見つめた。
金曜日の夜は情報通り城嗣は華音と一緒にいた。
幼稚園に入り、友達もできて楽しそうにしているが、やはりこうして城嗣がいるとき
は甘えて離れようとしない。今夜も絵本を読んでくれるようお願いされたようだ。
すると、コツンと何かが窓ガラスに当たった。見上げると、リサがこちらを見てい
る。
「え?」
彼は一瞬目を疑った。ここは2階だからだ。だが彼女はあのBlack Widowの一員だ。壁
伝いに登ってくることくらい朝飯前だろう。
城嗣が窓を開けると彼女はさっと中へ入った。驚く間もなく彼は窓を閉めた。華音は
さすがというか堂々として突然の客人にも動じない。
「どうしたんだ、こんな夜更けに」
「ねえ、私と一緒に来て」
「・・え?どこへ」
「いいから!今すぐよ、時間がないの。その子も一緒に来るのよ」
「話せないのか?」
城嗣は少し苛立つ気持ちを抑えて言った。
「理由を話している暇はない」
そう言うと、リサは華音の手を取り、強引に引っ張るように部屋を出た。
「お、おい」
城嗣はとっさのことに驚き、彼女を追った。
2人、いや3人が外へ出て闇に消えたとき、入れ替わるように数人の影が寮の下に集
まった。そして何かを手にするや否や、それらを窓ガラスめがけて投げ、割れ目から次
々と火の付いた筒状のものを投げ入れた。
彼らはすぐさま姿をくらまし、次の瞬間には大爆発を起こして一瞬のうちにその部屋
が炎に包まれた。