翌日、非常線が張られた現場は重々しい空気に包まれた。なにしろ警察の職員寮が
狙われたとなれば心穏やかではいられない。いつも以上に鑑識や刑事らの表情が険し
い。
そんな光景を呆然とした表情で見つめる城嗣がいた。彼のそばには華音がいたが、
彼女はじっと部屋だったところを見上げて、ポツリと言った。
「パパ・・お家なくなっちゃった」
そこは鉄筋だけが残り、もう見る影もなかった。少しだが煙が上っている。
「・・・・」
城嗣は何も言わず、そっと彼女を自分の体に引き寄せた。
そこへ健一と純子がやってきた。
「大丈夫か?」
「・・ああ・・」
「確実にお前を狙ったんだな。幸い、他の連中はいなくて大事に至らなかったよう
だ」
「・・で、その女性はどうしたの?」
純子は城嗣を見た。が、彼は頭を振った。
「気付いたら、もういなくなっていたよ」
健一も彼を見た。
「そいつは例の連中の仲間だろう?お前を救っただなんて信じられんな」
「だが、彼女は華音も一緒に行けって言ってくれたんだ。明らかに俺をー」
城嗣は口をつぐんだ。彼女はやっぱり・・。
城嗣と華音はとりあえず警察署内の宿直室の1つに泊まることにした。あの寮が修
復されたらそちらへ戻るつもりだが、同僚たちは心配していた。
だが城嗣には何か引っかかることがあってそんなことは気にしていない様子だっ
た。
夜も遅く、一人の影が署近くに現れた。ボブカットの女はしばらく立ち止まってい
たが、そっと前にいるリサに近づいた。
「リサ、あんたこんなところで何してんだい」
リサは振り向いた。
「・・カミラ」
カミラと呼ばれた女はちらと建物を見た。
「あいつ、ここにいるね」
リサは行こうとしたが、カミラの鋭い声がした。
「待ちな!・・まさかあいつを逃してるんじゃないだろうね」
「・・・まさか」
「ふーん」
リサはプイと顔を背けたが、カミラは顎を持って自分へ向かせた。
「抜け駆けするつもり?」
リサは彼女の手を払いのけた。
「いいかい、裏切ったらどうなるかわかるだろう?」
「・・どうするつもり。言い付ける?」
カミラはふふんと笑った。
「どうするかなあ」
カミラは謎の笑みを浮かべて去った。リサはじっと彼女の後ろ姿を見つめ、大きく
息を吐いた。