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                         ー エピソード11 宣戦布告 ー





                「あ、な~んだ・・・浅倉くん、いないの」
                佳美巡査長は交番に入るなりそう言った。
                そこには、城嗣や健一の姿はなく、大槻尚人巡査がただ一人いただけだった。
                「あ、村上先輩・・」
                佳美は彼を見ると、近くまでやってきた。
                「ちゃんと仕事してる?浅倉くん怒らせていないでしょうね、だめよ、こっちまで
                とばっちり来るんだから!」
                「は、はい」
                彼女は勝手知ったるという感じでスタスタと奥へと行ってしまったので、大槻巡査
               はただ黙って見ているだけだ。
                「コーヒーもらおうっと♪」
                彼女はメーカーから自分のらしきマグについで、続けた。
                「知ってる?これ、エスプレッソ・マシーンなのよ。浅倉くんってね、絶対エスプ
                レッソしか飲まないの。イタリア人に取って、コーヒーというのは”エスプレッソだ
                け”なんだって。知らないと、怒られるから知っといた方がいいわよ。そこらのコー
                ヒーは薄くてダメなんだって」
                彼女はふふと笑った。
                「おかげで私もエスプレッソ好きになっちゃった。だって、好きな人と同じになり
                たいじゃない?」
                「あの・・村上先輩」
                「ん?」
                「男はやっぱり顔なんですかね」
                「・・は?」
                「浅倉先輩みたいに顔がいいと、やっぱり女子にモテますよね」
                「まあ、そうでしょうけど・・。でも彼の場合、それだけじゃないわ。昔ね、暴漢
                から私を救ってくれたの」
                「・・・・・」
                佳美は思い出すように遠くを見つめた。
                「警官になりたての頃だったんだけど、ある日の夜、犯人を見つけたので捕まえよ
                うとしたら、逆に倒されちゃって私を襲おうとしたのよ。そんな時、彼がやってき
                て犯人を締め上げてパトカーに乗せたと思うと、私にこう言ったわ。『こういう時
                は一人でやろうとするな、誰かと一緒に行動しろ』って。怒られちゃった」
                佳美はぺろっと舌を出した。
                「あの時、私には彼がまるで王子様に見えたわ。それ以来、彼に・・・」佳美はふ
                うっとため息をついた。「でもあいつときたら、私の気持ちなんか全っ然、気づい
                てくれないんだから」
                「そんなことないですよ」
                「・・え?」
                「大丈夫ですよ」
                巡査は頷いて意味ありげに微笑んだ。


                健一は隣であくびをする城嗣を見て、ふっと笑った。
                「どうしたんだ?夜更かしでもしたのか?」
                「華音が絵本読んでくれって聞かなくてさ・・結局3冊読んで、夜中になっちまっ
                た。少しでも気をぬくと、もっとちゃんと読んで!・・とくる」
                健一は笑った。
                「あいつらと一緒にいるからだんだん似てきたよ。女性は皆同じだな」
                あいつらとは村上巡査長たちのことか。ああ、そういえばジュンも時々世話焼いて
               るな。
                「同情するよ」
                健一は心からそう思った。ジュンといえばいつも自分にうるさい。世話焼き女房の
               つもりか。
                2人は揃ってあくびをした。
                「こらあ、そこの2人!」
                「すみません!」
                講習の途中だった。2人はテキストに目を移した。








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