大槻巡査は、入ってきた城嗣と佳美を見て、こういった。
「おかえりなさい。ご一緒なんて珍しいですね」
佳美は嬉しそうな表情をして何か言いかけたが、城嗣が先に口を開いた。
「ただついてきただけだ」
そして奥へ行ってしまったので、佳美はプイと頬を膨らませた。
それを見た大槻は何か言おうとしたが、城嗣は彼女にこう言った。
「そんなところに突っ立ってないで、こっちへ来たらどうだ。お前の食べたがっていた
ケーキ冷やしてあるぞ」
佳美はパッと明るい表情になり、そそくさと彼の元へ急いだ。
「覚えててくれたのね。やっぱり浅倉くんは違うわ〜」
「食いしん坊は大きいほうがいいだろ」
見ると、カットしたケーキは通常より大きめだ。
「・・もうっ。乙女の気持ちわからないのね!」
「健じゃあるまいし」
「同じよ!」
「ふん」
城嗣はふふんと笑って顔を洗うために洗面所へ向かった。
「でも用意してくれてるだけいいか」
彼女は一緒に置いてくれたコーヒーを口にした。
大槻巡査はそんな彼女を見たが、書類に目を移した。
彼は顔を上げて、じっと奥を見ている佳美を見て、彼女の視線の先に目をやった。
城嗣はじっと考え事をしているようだ。時々ため息をついている。
佳美はそうっと大槻巡査のそばへやってきた。
「ほら、見てごらんなさいよ、あの悩んでいる顔もまた素敵じゃない?憂いがあって」
「はあ・・」
すると佳美はバン!と彼の肩を叩いた。
「もうっ、何よ、はあ、って・・」
「・・・痛いなあ・・何すんですか」
「そういう時はね、嘘でも”そうですね”って言うのよ」
「はい」
大槻巡査は、心の中で”男がそう言ったら怪しくないですか?”と聞いた。
「さてと、戻るか」
「もう行ってしまうんですか。先輩に挨拶しなくていいんですか?」
「いいのよ、後でメールしちゃうから。どうせ、ああ、またな、で終わっちゃうしさ。
じゃあね、大槻くん。頑張って」
「おやすみさない」
佳美が出て行ったからしばらくして城嗣が出てきた。彼は水切りかごにきちんと洗って
置いてあるカップと皿を見てこう言った。
「あいつ、もう帰ったのか」
「はい、先ほど」
「ふ、あいつなんだかんだ言って全部食っちまいやがんの。素直に喜べばいいものを。
世話がやけるぜ」
「浅倉先輩」
「え?」
「私は負けませんよ」
「・・何が?」
「村上先輩です。彼女はあなたが好きだそうですが、あなたは興味なさそうなので、私
に振り向かせるようにします。いいですね」
城嗣はキョトンとした表情をしたが、こう言った。
「よくわからねえけど・・あいつが好きなのか?なら協力するぜ、好きになることはい
いことだからな。だけど、お前、あんなのでいいのか?後悔するぞ」
大槻巡査は呆れたように言った。
「ずいぶんな言い方ですね」
「やめとけ、あいつはなー」
「ああ、そうか、先輩恐れをなしたんですね。ライバルの出現に」
「ライバル?何だそれ」
「先輩だからって遠慮はしませんよ。僕はきっとやりますからね」
大槻はそう言って離れた。
「お、おい・・・お前、何食ったんだ?」
城嗣はそう言って引っ込んだ。大槻巡査はため息をついて書類に目を落とした。
「・・結構大変かも」