title_banner



                    〜エピソード3 恋する乙女たち〜



           「パパ、華音、向こうにいるの飽きちゃった。パパと一緒にいちゃダメなの?」
           城嗣は自分に甘えてくる華音を見下ろし、しゃがんで彼女をあやすように髪を撫
          でた。
           「ここはパパが仕事をするところだから、華音はいちゃいけないんだよ。」
           「パパがいないからイヤだ〜。」
           「華音・・。」
           華音は城嗣に抱きついてぐずりだした。無理もない、まだ3歳になったばかりだ。
           彼は彼女を抱きしめて背中をさすった。その表情はしかしどうしたものかという思
          案顔だった。
           そんな時である。
           後ろから佳美巡査がそっとやってきてがばっと城嗣の背中に抱きついた。
           「あ・さ・く・ら・くん♪」
           その瞬間、城嗣ははっとして振り向き、抱きついて来た何か(と彼は思っている)
          を振り払った。
           「・・触るなっ!」
           が、彼は次の瞬間には驚いている佳美を見て、落ち着きを取り戻した。
           「・・・ご、ごめん。」
           「う、ううん・・・。私も悪かったわ。急に抱きついたりして・・。」
           「悪かったよ。・・怪我しなかったか?」
           「んもう、気にしないでよ。私が悪いんだから。・・・・・・(覗き込んで)
           ねえ、顔色悪いわ。大丈夫?・・・・・もしかして・・私が・・原因?」
           城嗣は視線を落とした。
           「・・・昔、イヤな目に遭った。」
           佳美は眉をひそめて城嗣を見た。
           (・・やだ、ゲイにでも襲われでもしたのかしら。)
           「・・少しの間だったが、付き合ってた女がいた。」
           「えっ・・・・ウソーっ」
           「でも、そいつは・・・。俺を好きで近づいてきた訳ではなかった。俺の・・・・
           体が目的だった。」
           「・・・・・・・。」
           「・・・そいつを追い返したが、しばらくはしつこくつきまとわされた。・・・
           外に出られなくなった。怖かったよ。(ふっと笑う)・・・情けねえだろ。・・・
           でも、あの時は本当にー」
           城嗣は佳美を見た。
           「・・・大丈夫か?打ち所でもー」
           佳美は鼻をかんだ。
           「可哀想!・・・・ううっ」
           「お、おい、泣くな。こんなところで・・・」
           城嗣は外を見た。交番なので道路に面していておまけに人通りが激しい。
           「俺が泣かしたみてえじゃねえかよ。」
           「浅倉くん!」
           「・・・は?」
           「今後、そんな女がもし来たら、私、守ってあげるからね!」
           「・・・もし来たらって・・変な事言うな。」
           「いい?」佳美は彼に詰め寄った。「私から離れちゃダメよ。」
           「・・・あのな。」
           「私はね、合気道2段、柔道4段、空手3段の腕前よ。(胸を叩く)まっかせな
           さーい。」
           そこへ純子が入って来た。
           「またいたの。熱心ね。」
           「あなたは、彼氏のところへ行ってなさい。」
           純子はちらと背後にいる健一を見た。
           「あんなの、彼氏なんかじゃないわ。」
           「・・・・・。」
           「もうっ、素直じゃないのね。好きなくせに!」
           純子は慌てて佳美の口を抑えた。
           「聞こえる!」
           健一はというと、涼しい顔で奥へと行ってしまった。なので純子は手を腰におい
          てこう言った。
           「もうっ、健のトンチキ!」


           その日の午後。署内のテラスに純子が一人椅子に座り、テーブルに顎をついてぼ
          んやりしていた。そして、はあと大きなため息をついた。
           そこへ佳美が紙コップを手にやってきた。
           「何ぼうっとしてるの、純子ってば。」
           純子は同じように椅子に腰掛けた佳美をちらと見たが、また視線を外へ動かした。
           「だってさ・・・」
           「ま、気持ち解るわー。いくらこっちが想ってても相手は暖簾に腕押し、ちっと
           も気付いてくれないもんね。・・・でも・・鷲尾くんよりはマシだと思ってた
           けど・・・・」
           「・・ジョーはあなたの気持ち、解ってると思うわ。」
           「そう?」
           佳美は目を輝かせた。
           「そうよ。それに、けっこう優しくしてくれるじゃないの。大丈夫よ。・・・
           それに引き換え、あのトンチキと来たら。」
           佳美はうつむいた。
           「彼にはトラウマがあるのよ。・・・女の人には身構えちゃうのよ。」
           「・・そうね・・。」
           「純子は知ってたのね。」
           「何となくね。・・・ジョーはイタリア人だもん。それなのに女の人に臆病にな
           るなんて、よっぽどの事よ。」
           「もったいないわー、モテるのに。」
           「あなたが治せばいいのよ。」
           「そうね!元の女の人好きなーってちょっと、それじゃ、女たらしになっちゃう
           じゃないの!そんなのダメー!」
           「何もそこまで心配しなくても・・・」






                            next