夜の交番では城嗣が調書に何かを書き込んでいた。そしてそんな彼の後ろでは、
華音がごそごそ何かやっていたが、やがて包みを抱えて彼のところへやってきた。
「パパ・・・これ。」
「ん?何だ?」
「あのお姉ちゃんが、パパに渡してって。」
城嗣は佳美の顔を思い浮かべた。
「・・あいつが?」
「ねー、パパー、見せてー。」
城嗣は包みを縛っているリボンをほどいて広げた。華音は中を覗き込んだが、
彼は中からブーケの形をしたキャンディの束を出した。
「わあ、お花だ〜」
城嗣は一緒に入っていた封筒を見ると、手紙を取り出した。
『浅倉くん、さっきはゴメンね。これ、華音ちゃんと食べてください。イタリア
のキャンディよ。あと、イタリアの人ってお花が好きだと聞いたので、ブーケ型
にしたの。
そうそう、華音ちゃんのお守り、いつでも引き受けるから気軽に声を掛けてね。
それじゃ、またね。 村上佳美 』
城嗣はやれやれという表情をした。
「ったく、何で俺にキャンディなんだよ。華音、お前にって。でもいっぺんに
食べちゃダメだぞ。少しずつにしろ。」
「うん!」華音はぱっと顔をほころばせ、ブーケを抱えた。「あのお姉ちゃん、
パパの事好きなの?」
「・・えっ」
「ママになるの?」
「華音、もう遅いからおやすみ。」
「えー、まだ、食べてないよー。」
「解った、一個だけだぞ。」
「ここで食べる!」
華音は嬉しそうに城嗣に抱きついたので、彼は彼女を抱き上げて膝の上に乗せ
た。彼女は彼の腕の中に体を埋めた。
城嗣はため息をついて、華音の髪を撫でた。
「・・・しょうがないな。」
「パパの中って温かいね。」
「・・・・・・。」
彼はじっと腕の中の小さな娘を見下ろした。
そんな彼らの様子を、後ろにいた健一と純子が見ていたが、やがて純子はこう
言った。
「ねえ見て、本当の親子みたいね。」
「ああ。」
「ホントの事言わないで、いっそジョーの子って事にしちゃえば?」
「それはどうかな。いずれ気付いてしまうよ。子供は勘が鋭いんだ。」
「でも・・あの子、本当にパパだと思ってるのよ。可哀想よ・・。」
「まあ、親には違いないからさ、血が繋がってなくてもな。成り行きに任せるしか
ないよ。」
2人はしばらく黙っていたが、やがて純子は立ち上がった。
「さて、私は帰ろっと。じゃあね、健。」
「ああ、おやすみ。」
「ジョー、華音ちゃんもまたね。」
「バイバーイ!」
純子は無邪気に手を振る華音を見て微笑んで出て行った。
やがて華音は大きなあくびをして城嗣の胸の中で崩れるように眠ってしまった。
なので彼は抱えたまま奥へと歩いて行った。
「なあ、ジョー。やっぱりその子を一人で見るのは大変じゃないのか?」
「え?構わねえよ、それより人の事心配する前に自分の事考えた方がいいじゃねえ
のか。」
「は?自分の事って?」
「・・・独り言だ。」
城嗣はやれやれとため息をついた。