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                  ー 黄金の翼シーズン2:エピソード5 彼女の心配 ー






                 健一は書類に目を通す傍ら、背後に時折目を遣った。
                 そこには城嗣がいたが、彼は深く椅子に腰掛け、壁に凭れる格好で腕組んで目を
                閉じていた。
                 先ほどからあまり口もきかずそんな時間が過ぎて行くばかりだった。
                 なので健一はそんな彼に声を掛けづらく、どうしたものかと思案していた。
                 そう、あれから彼はずっとふさぎ込んでいる感じなのだ。
                 おまけに上の空の時もあり、ちょっとしたミスも連発する。

                 「・・・・。」
                 健一は小さく息を吐いた。
                 そんな時彼はそうっと交番を伺っている人物を見た。
                 「誰だろう?」
                 「・・・健!」
                 「え?」
                 健一は城嗣が拳銃を構えて来た事に驚いて彼の手を押さえた。
                 「大丈夫だよ、おじいさんだ。」
                 「・・・・。」
                 「(顔を覗き込む)・・お前、最近おかしいぞ。あんな目にあったから無理もな
                 いが。いいから奥へ行って休んでろ。」
                 「・・・ふん、子供扱いしやがって。」
                 城嗣は拳銃をしまい、頭を振って引っ込んだ。
                 健一は笑って交番のドアを開けた。
                 「どうしましたか。外は寒いから中へ。」



                 警察署内の交通課ではせわしなく署員たちが動き回っていた。どこかで事故があ
                ると連絡が入り、その都度機動隊のメンバーが出動していく。
                 佳美は同僚の女性警察官と一緒に書類の整理をしていたが、あまりの交通違反の
                多さに辟易していた。なので彼女達は愚痴っていたが、ふと同僚はこう言った。
                 「ねえ、知ってる?」
                 「え?」
                 「何か・・・浅倉警部補、狙われているみたいよ。」
                 「・・狙われている?誰に?」
                 「例の組織の連中みたい。」
                 佳美は彼女をじっと見た。
                 「・・・・何で?」
                 「よく知らないけど・・・まあ、あの人、けっこう色々と危ない事に頭突っ込ん
                 でるからねえ。マークされちゃったのかなあ。」
                 「・・・・・・・。」
                 「それに・・目立つもんねえ。背が高くて素敵な人だから、この前みたいにヘン
                 な女が近づいちゃったのかもー」
                 「・・・・・・。」


                 交番にいた純子はふと顔を上げて、慌てて食べていた物を飲み込んで、入って来
                た佳美を見た。
                 そして何食わぬ顔して微笑んだ。
                 「あら、佳美。どうしたのよ。」
                 「・・彼らは?純子一人なの?」
                 「そうよ。彼らはよく”仲良く”パトロール行っちゃうから私はお留守番ってわ
                 け。ってか、しょっちゅう空にしてるからいてやってるのよ。ったく、しょうが
                 ないんだから。」
                 純子は最後の方になると愚痴るように腕を組んだ。
                 「純子は知ってる?浅倉くんが・・・例の組織に狙われてるって。」
                 純子は腕を解いた。
                 「・・・・薄々ね。」
                 「そう。」
                 純子は佳美が背を向けて出て行きそうになったので声を掛けた。
                 「ねえ、佳美。あの人のことだから・・きっと自分から話さないと思うけど・・
                 支えぐらいにはなれると思うわよ。」
                 佳美は振り向いてうなづいた。


                 それから数日が経った。署内を歩いていた佳美は目の前から城嗣が歩いてくるの
                を見て立ち止まった。そして彼がすっと横を通った瞬間に言った。
                 「もう、浅倉くん!私が見えないの?」
                 城嗣はあっという顔をして足を止めて振り向いた。
                 「・・あ、ああ・・・ごめん。」
                 「無視するなんて酷いわ。」
                 「無視じゃねえよ、気が付かなかっただけだ。」
                 佳美は行きそうになった彼に声を掛け続けた。
                 「ねえ、もう危ないマネはやめて。狙われてるなんてよっぽどの事よ。もしかし
                 たら殺されるかもー」
                 「俺はな、奴らを叩くためにここに来たんだ。それに・・敵(かたき)でもある
                 しな。」
                 「・・敵?」
                 「奴らは俺の両親を殺した。」
                 「・・・・・・。」
                 「だからだ。」城嗣は彼女に背中を向けた。「分かったら仕事に戻れよ。途中な
                 んだろ。」
                 「だからって・・」
                 「じゃあな。」
                 城嗣は歩き出した。そう、あの組織を叩く目的が彼らにはあった。だが彼には、
                その組織の頭に自分の父親が君臨していたという事実は想定外であった。
                 しかしそれがあったからこそ、彼らに殺されたことに合点がいく。普通の市民が
                狙われることなんて有り得ないからだ。
                 そしてその事実は彼女には話す気分にはなれなかった。




                              

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