titele_banner
              

                        ー シーズン2:エピソード3 孤独な男 ー





                   華音はとても嬉しそうだった。
                   今日は城嗣が非番で一緒にいてくれるからだ。
                   だから彼女は朝から浮き浮きしていたが、そんな彼女を見て微笑んだ彼だっ
                  たが実は今日はある目的があって彼女と出かける事にしていた。
                   そろそろ華音を保育園に入れなくてはいけない。色々教えてくれる人はいる
                  とはいえ、いつまでも警察署内の保育室にお世話になるわけにはいかない。
                   「華音、パパとお出かけしよう。」
                   「えー、ホント?かのんねえ、ゆうえんちとかー、どうぶつえんに行きたい
                   〜」
                   「・・あー、それはまた今度な。保育園に行くんだよ。」
                   「・・ほいく・えん?」
                   「そうだよ。華音は、そろそろそこへ行かなくちゃ。」
                   「・・・やだ!」
                   華音は城嗣の脚に抱きついた。
                   「パパと一緒にいるー」
                   城嗣はしゃがんで彼女の頭に手を乗せた。
                   「華音、別にパパといられないわけじゃないよ、今までもそうだったろ?」
                   華音はぐすっとぐすりだした。彼はやれやれと彼女を優しく抱きしめた。
                   「保育園に行けば、お友達もたくさん出来るし、先生が色々な遊びを教えて
                   くれるぞ。あの部屋にいるよりはずっと楽しいから。」
                   城嗣は華音を離して、頭を撫でた。
                   「終わったらいつものようにパパのところに来ていいんだよ。」
                   「・・うん・・・」

                   そんなわけでようやっと華音を連れ出して、城嗣は彼女の手を引いて道を歩
                  いていた。
                   彼はとりあえず近場の評判の良さそうな保育園などの情報を集め、その中の
                  一園に行ってみる事にした。そこは時々公開日というのを設けて近所の保護者
                  向けに開放している。それだけ教育熱心という事のようだ。
                   入ると、同じように見学にやって来たと思われる、親子の姿がちらほら見え
                  た。
                   華音は同じ年頃の子供が気になるのか、そちらの方を見ている。
                   建物は淡いピンクやブルーを基調とした色合いでとても可愛らしい感じを受
                  けた。すれ違う先生らしき職員も感じは悪くない。
                   廊下などに貼ってあるお花紙で作った花飾りがあり、職員の手作り感が見て
                  取れる。
                   大きなガラス越しに入っている光が目に入って来た。横を見ると、中庭があ
                  り数人の園児たちが遊んでいる。華音が立ち止まり、その光景を見たので、城
                  嗣も同じように立ち止まった。
                   恐らく彼女にとって、たくさんの子供達を見るのは初めてかもしれない。楽
                  しそうに駆け回っている姿を見て何だか羨ましげに見えた。
                   城嗣はしゃがんだ。
                   「ほら、華音、みな楽しそうだろ。華音もすぐにこうやってお友達が出来る
                   かもしれないぞ。」
                   「うん・・」
                   「さ、行こうか。」
                   「パパ・・眠くなった。」
                   華音は城嗣の首に抱きついてしまい、彼はため息をついて彼女を抱き上げて
                  立ち上がった。
                   まだまだ甘えたい、か。彼は苦笑いをした。
                   「そうか、疲れちゃったか。けっこう歩いたからな。」
                   城嗣は早くこういった場所で友達が出来て楽しんでくれたらいい、と思って
                  いたが一方では、それによって彼の手から離れてしまうかもしれないという寂
                  しさのような感情があるのも事実だった。
                   (親というものは辛い役目だな。)
                   自分の両親も同じような気持ちを持ったのかな、と彼は考えたが、ふと木陰
                  に立つ一人の男に目をやった。子供達の側にいたが、特段何をする、という雰
                  囲気もない。きっと親か。
                   彼は職業柄、つい人を怪しんで見る癖がついているのに苦笑した。
                   やがて男は立ち去ったが、近くにいた保育士らしき女性が話しているのが耳
                  に入って来た。
                   「また来てたわ、あの人。」
                   「何か言いに来たのかしら。これでほとんど毎日よ。」
                   城嗣はまた職業柄のせいか、彼女達に訪ねた。
                   「さっきの人と何かあったのですか?」
                   「ああ、ええ・・」
                   「子供の声が五月蝿い、なんとかしろ、っていつも電話を掛けて来たり、
                   ああやって押し掛けてくるんです。」
                   「警察には相談したんですけど・・」
                   「そうですか。」
                   「・・・パパ・・・」
                   華音は目をこすって大あくびをした。
                   「あら、お嬢ちゃんはおねむみたいね。」
                   「・・ごめん、華音、忘れてたよ。」
                   城嗣は尻ポケットから手帳を出し、何かメモをして破った紙切れを彼女らに
                  渡した。
                   「何かありましたら、ここへ連絡ください。」
                   「えっ?」
                   「あ、あの・・」
                   城嗣は軽く会釈をして華音を抱えたままその場を離れた。









                                next