城嗣の病室には華音、健一、そして純子がいて、彼らは談笑していた。
                そんな中、利香を連れて皐がやって来た。
                「体調はいかがですか」
                「ああ、いいよ。君たちも無事でよかった」
                「ええ、何とか」
                皐はほほ笑んだが、すぐに真顔になった。
                「皆さんに挨拶を、と思って来ました」
                「挨拶?」
                「はい。私・・・免職になりましたのでしばらく皆様とは会えなくなります」
                「免職?・・どうしてまた」
                「・・・夫は・・かつてあの組織の人間だったのです」
                「だった・・?」
                「今は違うのか?」
                「死にました。・・いえ、殺されたと言うべきでしょうか。ある日抜け出そうとし
                て、捕まり、処刑されたのです」
                「・・・・・」
                「ですから、夫が何をしていたのか、どのような事をしていたのか、そして・・ど
                のように殺されたのか・・。知りたかったし彼らに復讐をしようと思い、侵入しま
                した。やがて私の素性が分かると、娘を人質に取り、浅倉警部補をマークして報告
                せよと言って来たのです」
                「それで俺と組んだのか」
                「ええ」
                「でも・・・娘さんを取り返したし、結果的に彼らのアジトは突き止められたわ。
                それなのに、免職だなんて・・」
                皐は頭を横に振った。
                「仕方ありません。身内の者が犯罪組織に関わっていたのですから・・。
                当然です」
                「・・・そうか・・」
                「でも、いい勉強させていただきました。貴方達の連携プレーはとても素晴らしい
                です。向こうでは、一人一人仕事の能力に長けていていましたが、いわゆるチーム
                プレーにはほど遠いものでしたから。
                ではもう行きます」
                皐は華音に向かって話しかけた。
                「華音ちゃん、これからも利香のお友達になってくれる?」
                「うん!」
                華音がうなずくと、利香も嬉しそうに笑った。
                「ありがとう」
                皐はおじぎをした。
                「それではみなさん、お元気で・・」
                「本条さんも」
                皐は利香を連れて部屋を出て行った。
                健一たちはじっと彼女達の後ろ姿を見つめた。



                署に出向いた健一は、人だかりの出来ている掲示板の前を通りかかった。
                彼は特に気に留める事なく通り過ぎようとしたが、そのうちの誰かが振り向いて彼
                に訊いた。
                「あ、鷲尾さん。どうしたんです?警部補は」
                「・・え?」
                「何かやらかしたんですか?あいつの事だから女か?」
                健一は笑う同僚を払いのけるようにその目の前の張り紙を見た。
                そこにはこう書いてあった。


                  『交通機動課 浅倉警部補 一ヶ月の謹慎処分とする』


                そこへ部長がやってきた。いつの間にか同僚たちはいなくなっていた。
                そして同じように横に立った。
                「私が出来る事はやった」
                「・・・・」
                「身内が犯罪者と分かれば、懲戒免職だからな」
                「ええ、分かってると思いますよ、あいつも・・。・・ありがとうございます」
                部長はポンッと健一の肩を叩くと、何も言わずに立ち去った。
                健一はうつむいた。


                城嗣は病室の大きな窓から青空を眺めていた。
                時々鳥が横切って行き、そして遠くでは飛行機の姿も見えた。
                彼は落ちて来た瓦礫で頭と背中を打撲したが、大事に至らなかった。指先に痺れも
                あったが、次第にそれも引いて行くだろうと医師は言っていた。
                そして目を閉じたが、ノックの音に目を開け、入っている人物を見つめた。
                「・・・部長」
                「どうだ、気分は」
                城嗣は軽くうなずいたが、こう言った。
                「・・なぜクビにしないんですか」
                「お前は直接関係ないだろう。たとえ親がそうであっても、子は別格だ。それに、
                別に犯罪に手を染めたわけでもあるまい。まあ、いい機会だ。ゆっくり休め。一ヶ
                月経てば元気にまた動けるだろう。お前は突っ走るクセがあるからな」
                「でもー」
                「最強のスナイパーを失いたくないだろうよ、上も。それじゃあな、お大事に」
                そして行きがけに一言加えた。
                「待ってるよ」
                部長は出て行った。
                城嗣は窓の方へ顔を向け、目を閉じた。一筋の涙が流れた。







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