交番に甚平と竜の姿があった。
健一と純子は久しぶりに彼らとの会話を楽しんだ。
「・・・・やっぱり兄貴たち、決めたの?」
「ああ。ゴメンな、一緒に戻れなくて。しばらくここに残っていたいんだ。何と
言うか・・何だか合ってる気がするんだ」
「分かるよ、それ。オイラもちょっとだったけど楽しかったもん」
「オラも楽しかったわさ〜。旨いもんがたくさんあって目移りするほどだ」
竜は思い出すだけで味が想像できるのか、口角を緩ませた。
「もうっ、竜はそればっか!」
健一と純子は笑った。
「それじゃあね、兄貴、お姉ちゃん」
「元気でね、甚平」
「うん・・」甚平は純子の顔を見ているうちに涙が出そうになったが、元気に
言った。「兄貴、ジョーの兄貴によろしくね」
「ああ」
「それじゃ」
2人は出て行った。健一と純子はずっと彼らの後ろ姿を見つめた。
健一たちは城嗣の見舞いに行った。
が、一足先に華音が彼の病室に入って来て、ベッドに腰掛けている彼の膝の上に
座っていた。
彼女の怪我は軽く、もう退院なのだが、こうして城嗣のところにやってきていた
のだ。
「あらあら、甘えちゃって」
「華音ちゃん、もう退院なんですってね。良かったね」
「ううん、かのん、パパと一緒にいるもん。一緒に帰るんだもん」
「そんな事言ったって・・」
「でも1人になっちゃうしねえ・・」
そんな時、健一の携帯が鳴った。
「呼び出しだ」
「ああ。よろしくな」
健一はうなずいた。
「行くぞ」
純子は佳美に言った。
「ジョーのこと頼むわよ」
「がってん!」
2人は出て行った。
「パパー、これ読んで」
華音はちゃっかり絵本を持って来たようだ。それは彼女のお気に入りのお話で、
何度も読まされているのだが、城嗣はやれやれという表情をしたものの、了解し
た。
そんな中、佳美はちょっと近づいてベッドの端に腰掛けたが、やがてそっと彼の
ところまで近づいた。
そしてそれとなく彼の肩に寄り添おうとしたが、すっと躱された。
「もうっ、何で逃げるのよ。私は別にー」
「本を読んでんだから邪魔すんな」
「もうっ、わからずや」
佳美が城嗣の肩を叩いたので、彼はこう言った。
「何すんだよ、大事にしろ」
「なーに言ってんの、そんないい身体してるくせに」
「お前から比べれば繊細だ」
「言ったね!」
城嗣は笑った。
佳美はふんとふくれたが、また試みた。今度は彼の肩に頭を乗せる事が出来て意
表をついたが、彼女はそのまま目を閉じた。
そして暖かな日差しの中、静かに時間が過ぎて行った。
ー 完 ー