健一は外に出た。印が消えてしまったのだ。
「・・くそう、逃げ出したか」
「兄貴ー」
健一はやってくる甚平と竜を見て少し安堵の表情を浮かべた。
「2人とも無事か。良かった」
「なんだあ、健たちだけかいのお」
「後の人たちは来ないの?」
「はは、俺達はじっとしているのが性分に合わないらしいぜ。やつらはきっと段
取りがあるんだろ。
・・・ああ、そうだ、大部分はやったんだが・・どうやら数人逃げたらしい」
「えー、本当かい?」
そんな中、建物に戻る人物がいた。ひときわ大柄な男は、現在の頭の男だった。
彼はある部屋に入ると、机の奥からノートPCを出して開いた。
「これでここもおしまいだ。奴らに捕まるような無様を晒すよりは消えた方がマ
シだ。」
男は笑った。
「お前らも道連れだ!」
男はキーを押した。
すると、建物の中枢に仕掛けられた爆弾が爆発し、一気に建物に亀裂が入って崩
れ始めた。
ちょうどやってきた吉羽たちは慌ててパトカーから降りた。
「・・・くそっ、間に合わなかったか!」
見る見るうちに凄まじい砂埃と共にコンクリートの塊が地表に積もってゆく。
2人は息をのんで見つめた。
健一たちは木の陰に潜んでいた。とっさに駆け出していたのだ。
だが。
「・・健、ジョーたちは・・」
「・・・。」
健一は眉をひそめた。
(あいつに限ってもしもなんて有り得ない。きっとどこかに隠れているはずだ)
と、かけらが動いて、皐が顔を出した。彼女は頭を抑えていたが、小さな手を引
いて瓦礫の中から出て来た。
「ああ、良かった・・・」
純子はほっとして彼女達に近づいた。
「本条さん」
「あ、白鳥さん・・・」
「ママ、かのんちゃんたちがいないよ」
彼女達は瓦礫の山を見た。そしてやってきた健一を見たが、青ざめていた。
そこへ吉羽達がやってきた。
「ご無事でしたか」
「・・・ジョーがまだなんだ」
「・・・えっ」
「せ、先輩・・・」
吉羽は叫んだ。
「よし、探せ!」
「はい!」
そして数人の刑事たちを引き連れて瓦礫の中に入って行った。
「浅倉先輩ー!」
「警部補殿ー!」
「田中、2手に別れるぞ。お前たちは向こうを行け」
「はい」
やがて遅れて佳美たちがやってきた。
が、佳美は突然足を速め、その瓦礫の積もる場所へ行ってしまい、純子は慌てて
付いて行った。
「佳美!待って、ダメよ!」
健一はそんな彼女達を見て叫んだ。
「ジュン!危険だぞ!」
甚平と竜も何も言わずじっと見つめた。
崩壊した建物の中を行くと、ところどころ男らが倒れているのに出くわした。多
分息はしてないだろう。
埃と血の臭いが充満していて捜査に支障が出そうだ。
佳美はそんな中をひたすら歩いていた。
彼女はふらつきながらも辺りを注意深く見渡しながら歩いていた。
「・・・浅倉くん・・・」
何度か涙腺が緩みそうになったが、ペンペンと自分の頬を叩いて奮い立たせてい
た。
「ダメダメ、佳美。しっかり!」
と、そんな彼女の耳にどこからか泣き声らしきものが聞こえて来た。
「・・・パ・・・あ〜ん・・・」
佳美はその声に導かれるように駆け出した。そして瓦礫の中に座り込んで泣いて
いる華音の姿を見ると、そこへ向かった。
彼女はハッとした。男の腕がコンクリの下から伸びてそれは華音の方に向いてい
た。
佳美はペタンとそこへ座り込んでしまった。城嗣の腕だったからだ。
恐らく華音を抱えるようにして守っていた彼はこの瓦礫の下敷きになってしまっ
たのだろう。
「・・・パパー・・・・パパ・・」
佳美はじっとその腕を見つめた。
「・・・浅倉くん・・・ダメよ、そんなの。・・・まだこんな小さな子供置い
て・・・バカ・・」
佳美は思わず泣きじゃくる華音を抱きしめ、一緒になって泣き出した。
すると声がした。
「・・・・おい、勝手に殺すなよ・・」
「・・え?」
瓦礫が動いて城嗣の顔が見えた。目を閉じていたが、生きていたのだ。
「浅倉くん・・・もうっ、バカっ、悪い冗談はやめてよ!」
「・・バカはお前だ、勝手に殺して泣きやがって」
「何よっ」
城嗣はしかし笑った。佳美は拗ねたが、頭を振った。
「パパー」
「・・華音・・大丈夫か?」
「うん」
「良かったな・・」
その後やってきた吉羽刑事らに城嗣は助け出され、担架で担ぎ出された。
そして彼は入院することになり、怪我をした華音も一緒に病院に数日入る事に
なった。
組織の人間は結果全員死亡が確認され、ようやく壊滅となった。