甚平は懐から取り出した小型の何かをいじった後、柱の裏や隙間にそっと入れたり
付けたりして回っていた。そして時々見渡してしたのだが、前から誰かが歩いてく
るのに気づき、さりげなく立ち上がった。
「おい、そこで何してる」
「え?いや・・ねえ、おじさん。」
「おじー何だ、俺はまだ20代だっ」
「へー、そうなの?若いんだねえ。それなのにこんなところに?」
「仕方ねえよ。このご時世だ、職にありつけるなんてほんの一握りの人間だ。俺達
みたいなはみ出しもんはここしかねえのさ」
「そう・・」
甚平はちょっとこの若そうな男に同情した。確かにこの国も失業率が高くはないが
かといって低い訳でもない。低所得の者はとことん貧しいのだ。
「ふん、ったく政府は何やってんだ。・・あ、そうだ、お前何か言いかけたな」
「あ、そうなんだよ。もうすぐサツどもがやってくるぜ」
「何っ本当か?」
「本当だよ、おいらの耳は確かだぜ。だからさ、この建物に爆弾を仕掛けたんだ」
「爆弾?」
「しっ、声がデカいよ」
「バカだな、味方に何やってんだ」
「わかんないかなー、奴らが来たら、一気に爆発させるんだよ。そうすれば、みな
木っ端微塵さ!」
「そ、そうか・・」
「だからさ、ここは任せて。だからさ、早く言って知らせて来なよ」
「分かった、ありがとよ」
男は去って行った。
甚平は彼は見えなくなると、腕時計を押した。
「・・あ、兄貴?探知機を仕掛けておいたぜ。これを流せば、内部が筒抜け
さ。・・・うん、早く来てね」
男は幹部部屋に来ると、中に入り、甚平から聞いた事を話した。すると、椅子に深
々と腰掛けた男は口角を上げてこう言った。
「爆弾か。そんな事しなくても、こちらでちゃんと用意している。デカいヤツを
な」
「本物を、ですな」
横にいた男は彼のタバコに火を点けた。
「そうだ。あのチビがスパイなのは分かっている。ぶっ飛ばしてくれる」
「逃げ出す前に」
男達はにやりと笑った。
1台の車が止まった。塀の向こう側は木々が生い茂っている。
中から出て来たのは健一、城嗣、純子、そして一番後に皐の4人だった。
「・・この奥だな」
「ああ」
「誰もまだ来てないようね」
「いいさ、奴らをある程度倒しておこう。とてもじゃないが、彼らじゃムリだ」
健一がそう言うと、城嗣と純子はうなづいた。
「それじゃ、甚平が送って来たデータを合わせてみよう」
彼はポケッチからタブレットのようなものを出すと、スイッチを入れ、そして自分
の腕時計をかざした。
すると、建物の見取り図のようなものが浮かび上がり、と同時に赤い点滅が何カ所
も光り始めた。
「それは何です?」
ずっと黙っていた皐は思わずそう訊いた。
「犯人のいる場所を示す印さ。俺達の仲間が目印に付けたんだ。」
「きっと貴方のお嬢さんがいる部屋も分かる筈よ」
皐はじっと彼らを見つめた。
「・・あなたがたは一体・・・」
3人は目だけで見合わせた。
「ただの同僚ですよ」
4人は建物に近づいて行った。
そして中に入ると、健一達はタブレットの示す位置を確認した。
「よし、やるぞ!」
それを合図に、部屋という部屋のドアを脚で蹴り開けるとそこにいた背広姿の男達
を倒して行った。
「・・貴様らっ!どこからーううっ」
3人の軽快な動きに呆気にとられて遅れをとっていた皐だったが、自分を羽交い締
めにしようとした男の股を蹴り上げ、床に飛ばした。
彼女はええ?という顔で自分を見ている城嗣らを見て肩をすくめた。
「足手まといにはならないでしょ」
純子はある部屋に来て言った。
「見て、数人いる側に小さな影が2つ見えるわ。きっと子供達よ」
「こいつらは見張りだな」
「健、ここは俺に任せろ。他にもまだいる筈だ」
「ああ、気をつけろよ」
「お前達もな」
そして健一と純子は駆け出し、城嗣は拳銃を手にしてぴたりとドアに張り付いた。
「突破するぞ。だが無茶するなよ」
「分かってるわよ」
城嗣はドアの鍵穴の状態から開いているのを確認したが、敢えて弾をぶち込み、
蹴って中へ入った。
そこにいた男達は一斉に彼を見た。
「・・・・紳士的にお入りください、お巡りさん?」
1人の男がそう嫌味っぽく言うと、城嗣はふんと鼻で笑った。
「名刺代わりに入れてやったぜ。それがおめえらにピッタリな挨拶だと思ってな」
男達はじりじりと彼の方へ歩いて来た。手はポケットに忍ばせており何かを出そう
としている気配だ。
と、いち早く城嗣が動いて、拳銃の尻で後頭部を打ち、鳩尾を強く殴って次々と男
達を倒して行った。そしてその間に皐は倒れた男のポケットから鍵を取ると、隣の
部屋らしきドアを開けた。
案の定、2人の女の子が椅子に縛られていた。皐はまず華音を解き、そしてもう1
人の女の子を自由にした。
「ママ!」
女の子は皐に抱きつき、彼女はその髪を優しく撫でた。
「もう大丈夫よ、利香。偉かったね」
華音は皐の後ろから入って来た城嗣を見ると、駆け出して抱きついた。
「パパー」
城嗣はしゃがんで泣き出した華音の頭を撫で、額にキスをした。
「怪我はないか」
「うん・・」
城嗣は彼女を抱き上げた。
「早くここから出ましょう。貴方も早くー」
「ああ」