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                      ー シーズン2:エピソード12 拉致 ー






              健一は、顔を上げて交番の前でうろうろしている吉羽刑事を見た。
              彼が近づいて行くと、刑事はちらと振り向いてまた背中を向けた。
              「珍しいですね、何です?」
              「あ?・・・いや、ちょっと・・・」
              「あいにく俺1人ですよ。」
              「べ、別にあいつに会いに来た訳じゃない。・・・いや、どうしてるのかと思ってな」
              「ああ・・きっと捜査中じゃないですかね。警部さんと一緒に」
              「それだ!」吉羽は健一に向いた。「何か情報が上がっているに違いないのに、俺達に
              は来ないで、あいつらに、だ」
              捜査一課としては、自分たちに依頼がないのはプライドが許せないらしい。とはい
             え・・。
              「直々の依頼とあっては仕方あるまい」
              「ええ、あいつに組んで欲しいと言われたそうですから」
              「ふんっ」
              「それに、大勢で動くより最小人数で、というお上の考えもあるんじゃないですか?」
              「なるほどね」
              吉羽は棒読みで言った。納得してないようだ。健一は平静を装っていたが、内心は穏や
             かでなかった。何だか心配なのだ。一度組織らしき連中に連れ去られた事がある。
              城嗣が無事に帰ってくるといいがと思っていた。


              その城嗣は皐とともに古びた建物に中にいた。7区からの情報で一度下見に出向いた場
             所だ。
              そこは大通りからかなり奥まった寂れたところにあった。
              2人はある部屋に入ったが、人っ子一人いない。
              城嗣は出ようとしたが、皐は言った。
              「もう少し調べましょう。奥に続く廊下があります」
              彼女はささと進み、城嗣はその後を付いて行った。
              「行き止まりだぜ」
              「そのようですね」
              そこには大きな窓があった。城嗣は近づいた。
              「こんなに陽の光がありがたいと思った事ねえな」
              「今まで暗かったですからね」
              しばらく外を眺めていた城嗣はこう言った。
              「そういや、君の事よく訊いてなかったな」
              「訊いてどうするのです?2人だけのシチュエーションになると、男性って女性に急に
              親しげに訊きますよね」
              城嗣はふふんと鼻で笑った。
              「・・ちぇっ、見くびられたもんだな」
              「・・・私は・・大学卒業後、入隊するつもりでいました」
              「え?・・軍に入るつもりだったのか?」
              「でも、同じ守るものがあるとしたら、もっと身近で活躍出来る方がいいかと」
              「それで警官に?」
              「ええ、それも上層部。その方が色々情報がわかりますから。国の安全は足下から見な
              いと、うわべだけでは不十分です」
              皐は壁に寄りかかって続けた。
              「ここの人たちがどんな暮らしをし、何を考えているのか。すべて把握する必要があり
              ます」
              「ふーん・・でも大勢の考えなんて一律じゃないぜ?せいぜい知ったとしても、仕事に
              特別影響しない」
              「そうでしょうね、ただこの付近を見てるだけじゃ」
              城嗣は頭を振った。
              「やれやれ、随分気張ってるようだけど、少しはリラックスしろよ。気が滅入っちまう
              ぞ」
              彼は腕を組んで目を閉じた。
              皐はそんな彼を見て、そっと別の部屋へと移動した。
              そして携帯を取り出すと、耳に当てた。
              「・・・私だけど・・・ええ。いるわよ、言われた場所に。・・分かってる。
              ・・・・・ねえ、声聞かせてよ」
              『・・・仕方ねえな』
              『・・ママー』
              「ごめんね、これが終わったら一緒に帰ろうね。もう少しの辛抱だからね」
              『・・うん・・・』
              『切るぞ』
              皐はしばらくして携帯を下し、ポケットにしまった。そしてうつむいた。
              「・・・・・」






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