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                 ーエピソード2 子連れ警官ー




           通りに面した通路を、小さな女の子に腕を引っ張られるような形で走っている
          一人の婦人警官がいた。そしてそんな彼女達の後ろをやはり走る婦人警官がつい
          て行っていた。
           「ちょ、ちょっと、華音ちゃん、そんなに急がなくったって、逃げないよー。」
           「ダメー、早く行くのー。お姉ちゃん、遅いよー。」
           「ねえねえ、佳美。彼、まだパトロール中なんじゃないの?」
           「何で分かるのよ。」
           「だって、パトカーがないもん。」
           彼女達のすぐ目の先に交番があった。そしていつも横付けしているパトカーが
          ないのを見て、村上佳美巡査長は華音と呼んだその女の子に言った。
           「華音ちゃん、まだ帰ってないって。」
           「じゃあ、中で待ってる。」
           華音は佳美の手を引っ張ったまま中へ入った。相方の天童美香巡査長も続いた。
           「いつも2人で行っちゃうんだから。留守にしてていいの?仲いいのはいいけ
           どさ。」
           「あっ、戻って来た。」
           「よし、華音ちゃん、隠れてよ。パパを脅かしちゃえ。」
           2人の婦警は少女を連れて奥へと消えた。

           しばらくして健一と城嗣が入って来た。
           「・・ったく、どうかしちまったんじゃねえのか?おめえらしくないぜ。」
           「ああ・・・いや、何だかそう悪い奴じゃないような気がして。」
           「おめえは、本当にお人好しだな。あいつが何かとんでもない事件やら起こさ
           ないよう願いたいもんだ。」
           城嗣は少し間を置いて続けた。
           「あの時だってそうだろ、健。あいつを仕留めないで逃がした。」
           「・・・・。」
           奥で2人の会話を聞いていた彼女達だったが、美香がそっと小声で佳美に言っ
          た。
           「・・・鷲尾くん、何かヘマでもやらかしたのかしら。」
           城嗣はやれやれとため息をついた。
           「ま、いいさ。済んだ事はもう流すよ。・・・何か飲むか?」
           「ああ・・ありがとう。」
           「パパ!」
           華音は飛び出し、城嗣の長い脚に抱きついた。彼は下を見下ろした。
           「・・華音、来てたのか。」
           すると佳美たちも顔を出した。
           「私たちも来ちゃった〜。だって、早く行きたいって引っ張られちゃって・・」
           「ふーん。」
           健一は腕を組んで彼女達を見た。
           「2人いっぺんに来て、部長に叱られるぜ。」
           「あら、鷲尾くんたちこそ、2人とも出て行っちゃって交番留守にしちゃって
           いるじゃないの。署は人数いるから大丈夫よ。」
           「そう言う問題じゃなくてー」
           「パパー。」
           城嗣は、手を伸ばし抱いてくれという合図で甘える華音を抱き上げた。
           佳美はそんな彼を見てこう言った。
           「ねえ・・浅倉くん・・。華音ちゃんのお守り、全然苦にならないからね。別に
           いたって構わないわよ。一人じゃ大変でしょう。その・・」
           「・・大丈夫だ、心配するな。」
           城嗣は奥へと行ってしまい、佳美はため息をついた。
           「もうっ、浅倉くんったら・・。鷲尾くんの鈍感さが遷(うつ)ったのかしら。」
           「・・・え?」
           「ねえ、純子はどうなのよ。」
           美香がそう言ったので、健一は腕を解いて彼女を見た。
           「どうしてジュンが出てくるんだ?」
           「酷いわー、彼女、本当に鷲尾くんが好きなのよ。」
           「・・・まてよ、そう言われてもー」
           すると奥から楽しそうに今日色々あった出来事を城嗣に話している華音の声が聞
          こえてきた。
           佳美と美香はそんな彼女を見て目を細めた。
           「ふふっ、すっかり甘えちゃって。可愛いわね。」
           「もうすっかり親子にしか見えないわ。」
           健一は、じっと城嗣と華音を見つめた。そして彼の脳裏にはあの事件が浮かんで
          きて、思わずつぶやいた。
           「・・・お前の子は強いな。」





                            
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