華音は城嗣の実の子ではない。追っている最中、死亡した犯人の子だ。
             それは、雨の降りしきる秋の入りの、肌寒い頃だった。
             暴力団員だったその男は足を洗うために抜け出したが、組員らに追われ、
            瀕死の重傷を負った。
             そこへ駆けつけた警官数人の中に城嗣がいた。
             そこでは激しい攻防の闘いが行われ、流れ弾によってその男は虫の息に
            なった。
             男に駆け寄った城嗣と健一だったが、男は城嗣の方を見てこう話した。
             「・・・あんたに頼みたい事がある。・・・・俺には・・・・2歳になる
             娘がいるんだが・・・・母親もなく、俺がいなくなると一人になってしま
             う。・・・あの子を・・・・育ててやってくれないか・・・・。」
             「・・・・俺が?他にもいるだろ。誰がいねえのか?」
             男は首を力なく振った。
             「・・・・あんたは、子供が好きらしいじゃないか。・・・・よく小学生
             と話している姿を見た事がある。・・・・あんたなら・・・・あの子の父
             親として育ててくれる・・・・。頼む・・・・。」
             男は目を閉じた。そしてそれっきり動かなくなった。
             「・・おいっ、しっかりしろ!・・・・・・なんて事だ。」
             城嗣の背後に立っていた健一は、うつむいて目を閉じた。

             城嗣は華音を引き取り、養子縁組をして娘として育てる事になった。また、
            ”華音”という名前は、彼に思いを寄せている佳美巡査長がつけた(彼女とし
            ては、より彼に近づけるという思いがあったからなのだが)。
             そして、この幼い少女の境遇が自分のそれに極似している事が、彼の心を
            揺り動かした。
             彼の両親も悪の大組織の一員だったが、仕事に嫌気が差し、息子を守るた
            め脱退したが組織に抹殺された。あの時、彼もまだ幼かったのだ。


             「パパー、お腹空いた〜。」
             城嗣は、はっとして彼女を見下ろした。
             「ああ、ごめん、ごめん。待ってろ。」
             「浅倉く〜ん、私もお腹空いた〜。」
             「そこらで食ってこい。」
             「いやんもうっ、バカ。」
             「バカとは何だ。そんな事言うと、本当に作ってやんねえぞ。」
             「分かったわよー。」
             佳美たちは、なんだかんだ言いつつ、料理を作ってくれる城嗣に感動して
            いた。
             やがて交番内は、しばしの和やかな雰囲気に包まれた。






                         fiction