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                        ーエピソード19 決別の時(前編)ー
 



                町の中にサイレンの音がけたたましく鳴り響いた。そして数台のパトカー
               がとある豪邸の前に集まって止まった。
                中から出て来た刑事や捜査官たちがどっと屋敷の中へ流れ込んだ。
                そしてその中にはいつもの吉羽刑事と田中刑事もいた。
                彼らは部屋に入るなり、うっと鼻を押さえて田中刑事は一瞬目を逸らし
               た。
                絨毯が血で染まり、それはベッドの上から続いていた。
                「被害者は上でやられて、助けを求めるように下へ降りたところで倒れ、
                息を引き取ったと思われます。」
                そばにいた鑑識の職員がそう2人に説明した。
                「で、被害者は。」
                「この家の御曹司で、歳は35。一人暮らしをしていたそうです。」
                「ふん、金持ちの男が一人暮らしね。」
                「で、彼も一連の事件と同じように殺されたようです。」
                「そうか。」
                鑑識の職員が行ってしまうと、吉羽は被害者が倒れていたと思われる場所
               にしゃがみこんだ。ので、田中も同じようにしゃがんだ。
                「これで8件目だ。なんて事だ。」
                「この仏さんも、即死状態ですね。」
                「そりゃそうだ、例のごとく局所を切り取られている。出血多量であの世
                行きだ。」
                「一体、何でそんな事するんですかね?まさか・・コレクションしてると
                か。」
                吉羽刑事は田中刑事をこづいた。
                「アホッ、そんなものコレクションしてどーすんだっ!」
                「想像ですってばー。」
                「いいか、どれも予告の手紙やメールが入ってからの手口だ。警備員を付
                けたにも関わらず、やってのけてるんだぞ。」
                「その警備員、ふぬけなんじゃないですかねー。だって・・・・相手は女
                でしょ。」
                「そこだ。きっと、得意の色気を使って翻弄したんだろ。・・・ったく、
                なんて女だ。しかも、こんな事をして殺すなんて。」
                「男の尊厳を奪ってー」
                「あと命もな。」
                田中刑事は身震いした。

                健一は、次々とPCのメールに入って来る情報に、険しい表情で見つめてい
               た。
                また事件が起きた。若い男がいつものやり方で殺されて見つかった。
                しかも犯人は女ー。
                (・・・あの女の仕業だと言うのか。・・・なんて女だ・・)
                彼は城嗣の事が心配になった。きっと例の事件については情報として知っ
               ている。あの女の仕業に違いないのは確かだ。
                その彼はシャワー室にいた。
                本来なら一日の疲れを癒すひとときの筈だが、彼は常に外を気にしてい
               た。
                彼をつけていた女は以前、外から彼の様子を見ていた事があった。
                シャワーもおちおち浴びられない。
                彼はその時の女の蛇のように冷たい目が忘れられなかった。今にも自分に
               飛びかかり、取って食おうかというようなその目つき。
                自分が全くの無防備な姿である事が更に彼を恐怖に陥れた。それにもし女
               が騒げば、逆に体勢が不利になる。
                城嗣はタオルを体に巻き、水を拭くのもそこそこにシャワー室を後にし
               た。






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