ーエピソード18 罠ー
警察署の育児室では預けられる子供の数は日によって変動していた。
その中で城嗣の養女である華音はほぼ毎日ここにいて保育士かわりの職員と
いつも過ごしていた。
そんな彼女のお世話を自ら買って出たのが村上佳美巡査長であった。佳美
は城嗣に思いを寄せており、彼のためなら苦労もいとわないという気持ちで
いた。なのでそんな佳美の思いを察しているかどうか知らないが、華音も自
分と遊んでくれる彼女にすっかり慣れて甘えるようになっていった。
そんなある日のこと。いつものように華音の相手をしていた佳美はあっと
顔を上げて時計を見た。
「・・・やれやれ。早く終わるといいなあ。」
そして彼女は華音を見下ろして言った。
「華音ちゃん、ごめんね。お姉ちゃんたちお話会(会議のこと)があるか
ら、ちょっと行って来るね。」
華音はえーという顔をした。
「・・・・早く戻って来る?」
「うん。戻るよ。いい子にして待っててね。」
「うん。」
佳美は頭を撫でて立ち上がり、そして部屋を出た。
残った華音は座って絵本の続きを眺めていたがやがて飽きたのか立ち上
がっておもちゃ箱の方へ歩いて行った。
そのときドアが開いて、一人の女が入って来た。そして人形で遊び始めた
華音のところへ近づいた。
「・・華音・・ちゃん?」
華音は振り向いて自分に向かってかがんだ女の人を見上げた。
「だあれ?お巡りさん?」
「あのお姉ちゃんのお友達よ。」
「・・おともだち?」
「そうよ。一人だって聞いたから、代わりに来たの。・・ねえ、お姉ちゃ
んとどこか遊びに行かない?」
華音は嬉しそうな顔をしたが、気まずそうに言った。
「でも・・・ここにいなきゃいけないの・・」
女は微笑んだ。
「ふふ、大丈夫よ。ちゃんとお話ししてあるから。」
そして華音の手を取った。
「さ、いらっしゃい。」
女はそのまま華音の手を引いて部屋を出た。
その日の夕方に、交番にパトロールから戻ってきたパトカーが止まった。
中から出て来た健一は建物に入ると、カウンター上にある手紙らしきもの
を目にした。
「・・何だ?」
そして彼は中を開いて目を通すと、後ろから入って来た城嗣に言った。
「おい、ジョー。」
「・・え?」
城嗣はその手紙を手にし、眉をひそめた。
『お前の娘を預かった。警察署に隣接する講堂へ一人で来い。必ず一人で
来い。誰にも口外するな。子供の命はないぞ。』
城嗣はぎゅっと手紙を握りつぶした。
「・・・講堂だな。」
「危険だぞ。・・どんなヤツだか分からん。」
「大丈夫だ。」
城嗣はホルターを確認すると外へと飛び出した。健一はそんな彼の後ろ姿
を見つめたが、険しい表情になった。
(・・・まさか、例の女じゃー)
健一はしばらくすると携帯を取り出した。