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                        〜エピソード15 炎の記憶〜





               町中をサイレンを鳴らしてパトカーが1台、また1台と走り去って行く。
               人々は何事かと足を止めて見たが、パトカーは速度を緩める事なく駆け抜け
              て行った。

               先頭を走っていたパトカーは、とある場所に来ると止まった。それを見た男
              が慌てたように近くに建物に入って行ったが、中から出て来た2人の女性警官
              は姿勢を低くしてそこへ進んだ。佳美と美香だった。
               彼女達はいつものおしゃべりもどこへ行ったのかという感じの慎重さで入り
              口まで来ると、中をうかがってから入った。誰もいない。あの男はここへ逃げ
              た筈なのにー。
               2人が尚も進んで行くと、ドアが閉められた。
               「・・・ああっ!」
               彼女達は驚いてドアを開けようと手をかけたが、ふいに背後で声がした。
               「辞めた方がいいよ、もう開かないから。ある暗証番号を入れないと開かな
               いようになってんだ。」
               「何ですって?どういうつもりよ、貴方ね、もうこんな事しても無駄よ。す
               ぐに捕まるんだから。」
               「・・・ふ〜ん・・・。それはどうかなあ・・・・」
               2人は男が手にしていたポリタンクを見てはっとした。彼は彼女の周りに何
              かを撒き始めたのだ。
               灯油の匂いが鼻先にツンと来たので、2人は思わず手で覆った。
               そして男がライターで火をつけようとした瞬間、ガラスの割れる音と銃声が
              同時に響き、男の持っていたライターが遠くへ飛んで行った。
               「あっ」
               建物の上部の窓に2つの影があった。そして彼らはそこから飛び降りてスト
              ンと着地した。
               「また来たな。」
               男は健一と城嗣を見て後ずさりをした。
               「観念するんだな。もうここは包囲されているぞ。」
               健一はそう言って男に近づこうとしたが、ふいに男はもう一方の手から何か
              を放り投げた。
               それは火のついた棒で、その火は瞬く間に灯油に引火して燃え広がってし
              まった。
               「きゃあーっ」
               「し、しまった!」
               「彼女達が危ないぞ!」
               「俺は消防の応援を頼んでくる。」
               「ああ。」
               城嗣は奥へと逃げて行く男を見て追跡しようとして足を止めた。近くで咳き
              込む佳美たちの声が聞こえて来たからだ。
               「できるだけしゃがむんだ、俺がそっちへ行くから!」
               「・・・・浅倉くん・・・」
               城嗣は炎の向こうに彼女達の姿を捉え、行こうとしたが、突然何かを思い出
              したのか苦しみ出し、その場にうずくまってしまった。
               「浅倉くん!」
               佳美は思わず炎をかき分けて彼のもとへ駆け出した。人間とはいざと言う時
              には変な勇気が出るものである。美香も後に続いた。
               城嗣は汗だくで、目を閉じ、胸を押さえて苦しそうに息をしている。なので
              彼女達はどうしたものかとオロオロしながら彼を支えていた。
               やがてドアが鉈か何かでぶち壊され、どっと消防職員が流れ込んで来た。と
              同時に数人の警官も入って来て、奥へと駆けて行った。
               健一は城嗣のところへやって来た。
               「ジョー!大丈夫か!」
               「・・鷲尾くん・・。」
               「君たちは怪我ないか?」
               「ええ。でも、彼がー」
               健一は城嗣を見て彼の腕を自分の肩へまわし、抱えるようにして立ち上がっ
              た。
               「出よう。俺たちも煙に巻かれて大変な事になるぞ。」
               彼らは身を低くして入り口まで向かって歩いた。そして外へ出ると、木の下
              に行き、健一は城嗣を降ろして座らせた。
               やがて外と中からの挟みうちで、男の身柄が確保された。健一は顔を上げて
              前を刑事らに抱えられて歩く男を見つめた。
               やがて城嗣は目を開け、ゆっくり顔を上げた。
               「・・・あいつ、捕まったのか。」
               「ああ、けっこうな捕物帳になったな。」
               「・・大丈夫?浅倉くん。」
               「・・・何とかな。」
               「きっと熱や煙にやられたのね。」
               美香がそう言うと、城嗣は口をつぐみ、そしてこう話し出した。
               「・・・・・子供の頃を思い出したんだ。」




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