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                   〜エピソード12 警察署立てこもり事件〜



              どこの会社でも給湯室は女子職員のたまり場だ。
              そしてここ警察署においても例外ではない。入れ替わり立ち代わり、女子職員
             が仕事の合間を縫って(一部それとは思えないような職員もいたが・・)おしゃ
             べりをして世間話に花を咲かせていた。
              そして佳美と純子もそんな彼女達のようにいつも休憩時間に話をして過ごして
             いた。

              薬缶がピーと音を立てたのを合図に、佳美は熱々のお湯を2つのカップに注い
             だ。そしてスプーンでよくかき混ぜて一方を純子に渡した。
              「はい、出来たわ。熱いから気をつけてね。」
              「ありがとう、佳美。ふ〜ん、いい香りねえ。ハーブなの?」
              「そうよ。カモミール入りなの。すっきりするわよ。」
              「色々詳しいのね。私なんかダメ。」
              「そんなんじゃいつまでたっても彼の心を掴めないわよ。あー、そうだ。ね
              え、純子。あの人達に差し入れ持ってかない?」
              「差し入れ?」
              「そうよ。いつも夜遅くまでパトロールとかして疲れているでしょうから。」
              「いいけど・・コンビニだって飽きちゃったしなあ・・」
              佳美はもうっと言う顔をした。
              「何言ってんのよっ、作るの。」
              「・・えっ。」
              純子は口をつぐんでしまった。それというのも・・・。
              「どうしたのよ。」
              「私・・料理出来ないのよ。」
              「えーっ」
              「だからいつもお惣菜持って行くから、飽きられているのよ。」
              「そりゃそうでしょうよ。また浅倉くんに作ってもらってんの?男の人に作ら
              せちゃダメよ、やっぱり女が作らなくちゃ。平等とか言うけどね、料理は女の
              方から手作りして彼にあげるくらいしなきゃ。男はね、その方が喜ぶの。私は
              料理得意だからね。」
              「そう。きっと佳美はいいお嫁さんになれるわね。」
              すると佳美はドン!と純子を突き飛ばして顔を覆った。
              「いやん、純子ったら♪」
              「ふんっ、別にジョーだなんて言ってないでしょっ」
              「何よう、純子。鷲尾くんが好きなんじゃなかったの?浅倉くんに乗り換えよ
              うと思ってるなんて言わないでよ。」
              「そうしようかなあなんて最近思ってるわ。」
              「ちょっと、純子。諦めるんじゃないの。よし、それじゃ一緒に作ろ。教えて
              あげるから。」
              「分かったわ・・・。」
              佳美はうなづいた。
              「じゃ、仕事終わったらやりましょ。」
              「そうね。」
              2人は給湯室から出た。

              ロビーには警察官ばかりでなく、一般の人も歩いていた。相談などで訪れてい
             るのだ。
              そんな人の行き交う中で、あたりを見渡している一人の男がいた。
              彼は季節的に不釣り合いなコートを羽織り、何かを探しているようなそれも一
             点が定まらない感じで目を動かしていた。
              やがて男は目の前を歩いていた女子職員を片方で押さえつけ、懐に隠し持って
             いた拳銃を彼女の頭に突きつけ、ざわついた周りに怒鳴った。
              「動くな!動くとこいつの命はないぞ!」
              そして男は女子職員を抱えたまま後ずさりをしてその姿勢で開いたエレベータ
             に飛び乗った。
              「追えっ!」
              私服の刑事が叫ぶと、そこにいた警官たちはエレベータを追うために別のかご
             に乗る者と階段で行く者とに別れた。

              ロビーにやってきた佳美と純子はしーんとした空間に目をぱちくりさせた。
              「あら?誰もいないわ。変ね。」
              純子は振り向いて、カウンター奥で震えている受付嬢を見て近づいた。
              「ねえ、どうしたの?何かあった?」
              「・・あ、あの・・・拳銃を持った男が、人質を取ってエレベータに・・」
              「えっ?」
              「ホントなの?」
              受付嬢がこくんとうなづくと、佳美は携帯を手にした。そして耳に当て、しば
             らくして切った。
              「もうっ、肝心な時に繋がらないんだから!」
              「佳美、行くわよ。」
              「え、ちょ、ちょっと、純子ってば。」


              「あれ?」
              城嗣は携帯を見た。
              「どうした?」
              「いや、今鳴ったような気がしたんだが・・・気のせいか。」
              「無線だろ。何だか混線して良く聞こえないし。」
              2人は路肩にパトカーを止め、そこで降りた。町中は人々もまばらで割とひっ
             そりとしていた。
              その彼らの行く先では何人ものテレビや新聞記者が慌ただしく駆けていた。
              「警察署で立てこもりだ!いいネタだぞ!」
              そして彼らが行ってしまった後、健一と城嗣の2人がその通りを曲がった。
              「しかし、変だな。誰もいやしない。」
              「・・ああ。」
              「仕方ない、戻るか。」





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