町中に人があまりいないのは無理もない。真っ先に駆けつけたテレビ記者
              が、その立てこもり事件を早々と流してそれを放送してしまったものだから、
              人々はこぞってそれを見てたからだ。警察署という場所で起きたのだから一気
              に興味をかっさらってしまったのである。

               中はそれどころではなかった。
               人がわんさかやってきたので彼らを押さえるのに数人の警官が大わらわだっ
              た。
               張り込みをしていた吉羽刑事は思わずこう言った。
               「おい、あいつらはいないのかっ。何でこんな時に。」
               「先輩、いつもは邪魔者扱いするくせに、何で気にするんです?」
               「うるさいっ。全く本当に分からん、あいつらは肝心な時に来やしない。」
               吉羽刑事は行ってしまい、田中巡査は慌ててついて行った。

               男が女子職員を人質に立てこもった部屋の前にいる数人の刑事らの間からそ
              うっと佳美と純子は顔を出した。
               「あの部屋ね。」
               「よし、一か八かだわ。」
               そう言うと純子はさっと離れて非常階段へ続く扉を開けて外へ飛び出した。
               「あれ、純子!どこに行ったの?」


               交番に戻った健一たちはやれやれとサーバーから淹れたてのコーヒーを口に
              した。
               そしてテレビを付けた健一はこう言った。
               「おい、どこかで立てこもりらしいぞ。」
               「ふん、どこかの頭のイカれたヤツの仕業か。そんなものはあいつらがすぐ
               に片付けるだろう。俺たちが行くとまた嫌味言われるからな。」
               「それもそうだ。」
               健一はテレビを消した。

               純子はひょいと身軽な身のこなしで壁を伝い、そうっと窓から中を覗いた。
               中では、一人の男が女性の頭に拳銃を突きつけ、背中を向けて立っていた。
               純子はそれを見てしめた、と心の中でつぶやき、持っていたものでガラスを
              割った。
               「・・・!」
               男は振り向いた。そして割れたガラス窓を見ると、そうっとそのままの姿勢
              で慎重に近づいた。
               その男の上、天井に純子が張り付いていたが、男は全く気付く様子もない。
               「たあっ!」
               純子は男の隙を見て飛び蹴りを食らわし、男が倒れると拳銃を奪い、女性を
              守るように前に立った。
               「さ、観念しなさい。もう貴方はおしまいよ。悪あがきはよすのね。」
               「・・・・くそ・・・。」
               純子は無線に向かって言った。
               「女性は保護したわ。もう大丈夫。」
               ドアが開いて、数人の刑事らが入って来た。
               「さあ、立つんだ。ゆっくり話を聞くからな。」
               彼らは男を立たせ、抱えて部屋を出て行った。純子はふうと息を吐いて、女
              子職員を見た。
               「大丈夫?」
               「は、はい。ありがとうございます。」
               「良かったわ。さあ、行きましょう。」

               佳美は純子の姿を見ると、駆け寄った。
               「純子〜、すごい〜っ。どうやったの?やっだあ、純子が一人で解決しちゃ
               うなんて。」
               「いやあね、佳美。私には何でもないわ。」
               「これを聞いたら、鷲尾くん、きっと純子の事気になるわよ。」
               「・・そうかしら。」



               交番にやってきた2人だったが、誰もいないのに不審に思った。
               「健〜?ジョー?いないの?」
               「・・・きゃっ!」
               純子は突然佳美が大声を上げたので、彼女の視線の先を見た。そこにはタオ
              ルを腰に巻いた格好で立っていた健一がいたのだ。
               「・・えっ」
               健一は慌てて奥へ行ってしまったが、純子はただ立ち尽くした。
               「もうっ、声上げるタイミングなくしたじゃないの。」
               「おい、うるせえな。何だよ、大声出しやがって。」
               そう言って城嗣が外から入って来たが、2人を見て不思議そうに言った。
               「何やってんだ、そんなところで。何か用か?」
               「何か用かって、もしかしてずっとここにいたの?さっき呼んだのに。」
               「呼んだ?・・ああ、やっぱりあれはそうか。ふん、どうせたいした用じゃ
               ねえだろ。」
               「ま!みんなあんなに大変だったのに。呑気なものね。」
               「佳美、せっかく持って来たけど、これは私たちで頂きましょ。」
               「そうね、こんなところで仕事サボったバツ。」
               奥から制服に着替えて来た健一がやってきた。
               「どうしたんだ?」
               「・・知るか。訳の分からん事を言って2人で勝手に食ってやがる。」
               「ここは食堂じゃないぞ。」
               「つーん。」
               純子と佳美は無視してそのまま持って来たサンドウィッチをにぱくついた。
               それは、まさしく彼らのために作って来たものだったが、彼女達はもうどう
              でもいいや、と思っていた。
               そんな2人に対して男2人はまったく気に留める事なく奥へと行ってしまっ
              た。
               ので、彼女達はやれやれと顔を見合わせた。
               一体いつになったら気持ちが通じるのかしら、と思いながら。





             
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