『 若鳥たち 』



           南部博士はふととある部屋の前に来ると、立ち止まった。
           中には12、3歳くらいの男の子2人がいた。彼らは机の陰に身を潜め、本や
           鉛筆などをお互いに相手に向けて投げてはまた潜め、というのを繰り返してい
           た。
           そんな彼らを小窓から見た博士はドアを開け、中へ入って言った。
           「健、ジョー。何をしている。勉強はどうしたのだ、今は遊びの時間じゃない
           だろう。」
           2人は特に慌てるそぶりもなく、仕方ないな、という表情で立ち上がった。
           博士は部屋を見渡した。
           「おや、彼はどうした?」
           「知らないよ。」
           「忘れてんじゃないですか?」
           「そんな筈はない。呼んで来るから、ここで大人しく待ってなさい。いいね。」
           博士はそう言うと、部屋を出て行き、その足で別の部屋に向かった。そこには
           中年の男性がいた。
           「君、困るじゃないか。あの子達を放って何してるんだね。」
           「あ、博士。何してるって・・今日の勉強は2時間遅らせるって仰ったんじゃ
           ないんですか?」
           「誰がそんな事を?」
           「あの子達が言ってましたよ。博士が今日は2時間遅く始めて欲しいって言っ
           てた、と。」
           博士ははあとため息をついて額に手をやった。
           「・・・君、まんまとはめられたな。」
           「は、はあ・・」
           「ったく、あの子達ときたら、こういう悪知恵だけは天才だな。」

           そんな訳で博士は部屋の片隅で彼らの授業を見守る事にした。
           健とジョーの2人は真面目に聞いている風に見える。
           博士はじっと彼らの背中を見つめていた。喧嘩ばかりしていたと思ったら、
           先ほどのように一緒になって悪戯をしでかす。大人しくしている時間の方が
           少ないほどだ。
           仲良くなったのならいいがー。
           と色々と考えていたその時だった。

           突然轟音が鳴り響き、かなり強い揺れが起きた。
           戸棚が大きく動き、中の辞書や本が勢い良く飛び出して来た。
           教師は悲鳴を上げたが、とっさに健が飛びかかり、床に伏せさせて自分が覆い
           被さった。
           一方の博士にはジョーが身を挺し、その間にも飛び散るガラスや木片から彼を
           守った。
           そんな彼や健を見ていた博士はじっとその動きを見つめた。
           (・・・まるで鳥のようだ、この身のこなしは。)

           博士は2人を自室へ行かせ、教師と共に部屋の片付けを始めた。あちこちに散
           らばった本を元に戻しながら、教師は言った。
           「酷い地震でしたなあ。みな、無事で何よりです。」
           「全くだ・・不幸中の幸いってことだな。・・・・ところで君、さっきのあの
           子達の動きを見たかね。」
           「え、ええ。・・・・すみません、大人である私の方があの子達を守らなけれ
           ばならないのに、気付いたら、庇われていました・・」
           「・・あの的確な判断と俊敏は動きは尋常ではない。・・彼らを特訓すればー」
           そう言えば、と博士は思い出した。
           特にジョーは両親を殺したギャラクターを憎んでいる。その憎しみをぶつける
           形で生かしてやれば、最強の戦士に育つだろう。

           ギャラクターの勢力は次第に増して来ていた。
           恐らく今にとんでもなく恐ろしい事件を起こすに違いない。
           博士はあらゆる科学者たちの調査を分析し、そのような予測をしていた。
           未知なる恐怖、ギャラクターに対抗すべく、機敏な十代の若者達を集め、優れ
           た部隊を結成させる。
           博士はそんな構想を練っていたのだ。


           健とジョーはそれぞれ博士の元を離れた。
           健はパイロット、ジョーはレーサー、と各自の夢を実現させようとしていた。

           それから数年経った頃。
           博士は彼らに連絡を取った。


           「ああ、私だ。元気でやっているかね?・・・また私のところへ来ないか。
           君たちが必要になった。待っているよ。」





                           fiction