『 うらみの チョコレート? 』



                甚平は階段を降りて床に足をつけようとして慌てて引っ込めた。
                「・・っとっと」
                そしてそっと伺った。
                カウンターでじっと腕組みをして目を閉じているジュンがいる。
                「参ったぜ。すっと朝からずっとああだ」
                甚平ははあとため息をついて足音を立てずに上へ上がって、ドアを開けた。
                「困ったぞ。おいらも早くどっか行けばよかった」
                甚平はベッド下に置いてある靴を手にすると、天窓を開けてそこから外へ出た。
                そしてストンと降りると、素早く駆け出した。

                甚平が向かったのは、セスナが止まっている家だった。
                「兄貴〜っ」
                「甚平?」
                しかし出てきたのはジョーだった。
                「ジョー?なんで」
                「留守番頼まれたんだ」
                「へえ、兄貴どこいったの?」
                「知るか」
                「ひでえな、とことん逃げる気だぜえ」
                「あいつが行かねえと後が大変じゃねえのか?」
                甚平はスタスタと中へ入った。
                「そうなんだよ、お姉ちゃんすごく機嫌悪くなってさ・・困っちゃうよ・・」
                「あいつ・・どこをほっつき歩いてやがんだ。こんなに待たせやがってよ」
                「まあまあ、ジョーの兄貴。何か作ってよ。腹減った」
                「へ?」
                「お姉ちゃんを気にしてたら何も食べてないことに気がついた」
                「・・・そんなに長く待ってんのか?ジュン」


                ジュンは目を開けて大きくため息をついた。
                「健ばかりか他の人たちも来ないじゃないの。皆用があるのかしら。
                ・・甚平!甚平ったら!」
                2階の部屋のドアを開けたジュンはぐるりと目を動かして部屋の隅々を見渡した。
                「・・・まあ、どうりで静かだと思ったら」

                しばらくしてブレスレットが鳴っているのに気づいてジョーはスイッチを押した。
                「はい」
                『ジョー』
                「・・あ?健か!おめえ、一体どこに・・」
                『悪い、悪い、博士に呼ばれてね。それより今夜行くだろ。先にみんなで行ってて
                くれ。俺は遅くなる』
                「なんでおめえだけなんだ」
                『いいから。俺はリーダーだからな。それよりちゃんと行けよ、いいな。リーダー
                としてサブリーダーのお前に命ずるぞ。
                 じゃ、よろしくな、相棒』
                ぶちっ
                「・・お、おいっ!・・・・何が相棒だ、気持ち悪い」
                「兄貴、なんだって?」
                「スナックジュンにみんなちゃんと行けよ、だとさ。あいつ、後で来るって」
                「えー、勝手だなあ・・」


                夜になった。
                健は一人寝そべって夜空を見つめていた。
                大小様々な星たちが輝いてそれは綺麗な夜空だ。
                健はしばらく見つめていたが、やがて笑い出した。
                「・・こんな綺麗な夜空を見ないであんなところにいてあんなもの食わされるなん
                て冗談じゃないよな」
                今頃ジョーたちはジュンのお手製を食べさせられて苦労していることだろう。
                「悪いな、みんな。仲間を大切にするのも大事な任務だ。悪く思うなよ・・あ、俺
                は十分大切にしてるからな。今日は特別な日だ」


                しばらくして健はブレスのスイッチを押した。
                「ジョー」
                『・・ああ、健。仕事終わったのか?』
                「ああ、結局行けなかったよ。残念だなあ」
                『ほんとだぜ。おめえ、惜しいことしたな。ジュン、かなり腕を上げたぞ。美味
                かった』
                「・・・えっ」
                『今までが嘘みたいだった。程よい甘さでよ。バカだな、おめえ。俺にはわかる
                ぜ、わざと行かなかったんだろ』
                「・・・嘘だろー」
                『嘘じゃねえよ。じゃあな、おやすみ、リーダー様』
                健は慌ててスナックジュンへ向かった。実は腹が減っていたのだ。
                そんなに美味しかったのなら食べたい。

                スナックジュンはひっそりとしていた。先ほどまで客がいたらしく、飲み物や料理
                の匂いがかすかに残っている。
                「ジュン!」
                奥からジュンがやってきた。
                「あのさー」
                「もう閉店です。また明日どうぞ」
                「俺お腹空いててさ・・」
                「仕事大変だったのね。リーダーは大変ね」
                「そうなんだよ・・」
                「あいにくね、全部ジョーたちが食べてくれたからもうありません」
                「でも・・」
                「はい、もう夜遅いですから、おかえりくださいませ」
                健はジュンに強制的に押されるように外へ追い出されてしまった。
                「お腹空いたのなら、そこらの草でも食べてたら!」
                ジュンはピシャリ、とドアを強く閉めて鍵を掛けてしまった。
                「あー、しょうがない、今日はもう寝るか」
                健はトボトボと歩き出した。

                頑張れ、大鷲の健!挫けるなよ!




                                 ー 完 ー








                                  fiction