『チョコレート受 難』


              スナックジュンでは、数人の女性客がおり、カウンターには
              健とジョーがいた。
              彼らと他愛のない話をしていたジュンは、あ、そうそうと奥へ
              引っ込んで、2人の前にラッピングした小さな包みを置いた。
              「はい。今年は手作り諦めたわ。」
              すると健はやけに明るく答えた。
              「そうか。それは、ありがたい。」
              「…え?」
              「い、いや、何でもない…。」
              「ふーん。毎年ご苦労なこった。」
              ジュンは不甲斐ない2人を見て腰に手を当て、少し声を上げた。
              「あら!2人とも何よ、そんな顔して。欲しくないのならいいのよ、
              返してもらうから!」
              「…別に何も言ってないじゃないか。」
              健はつんとすました彼女を見た。
              すると、後ろの方にいた女性客が声を掛けて来た。
              「あらあら、可哀想に。こんな小娘なんか放っときなさいよ。」
              そしてジョーの前に高価そうなチョコレートを置いた。そして健
              の前にも置いた。
              「坊やにもあげるわね。」
              女性たちは彼らの方を振り向きつつ、店を後にして出て行った。
              彼らの前には数個のチョコレートが置かれていた。
              「2人とも、良かったわね、もらえて。」
              ジュンは冷たく言い放つように彼らを見た。先ほどの女性客は最初から2人
              目当てで来ていた。彼女は何となく嫉妬を感じていたのだ。
              しかしジョーは先に帰るよ、と立ち上がった。そしてもらったチョコレートを
              ジュンに渡した。
              「客にでも出せよ。」
              「…あら、ジョーったら、いいの?」
              「おい、せっかくもらったのにー」
              「バカを言え。ウイスキー・ボンボンだぜ?とっ捕まっちまうよ。」
              ジョーはまだ未成年で、しかも車で来ていたのでまずいだろ、という事らしい。
              彼はじゃあな、と出て行った。
              ジュンはジョーは大人に見えるからウイスキー・ボンボンをもらっても納得だわ
              と思った。それに引き換え、健は?
              「健はどんなのもらったの?」
              「…俺はミルクチョコだ。子供扱いしやがって。」
              ジュンは思わず笑ってしまった。
              「そうね、健にぴったりね!」
              健はちえっと舌打ちして立ち上がった。
              「俺も帰るよ。」
              「あら…もう?」
              「うん。誰もいなくなったし。俺、昨日は良く眠れなかったんだ。」
              健も同じようにチョコを置いて出て行った。
              後に残された形になったジュンは腕を組んた。
              「もう、健ったら。もう少しいてくれたっていいのに。…知らないっ。」
              後日、ジョーは健がさっさと帰ってしまった事をジュンから聞いて、”なんて
              気の利かねえ野郎だ、と思った。
              「せっかく2人きりにしてやったのに」
              そして健は、ジュンとジョーが彼に何か仕置きをしてやろうと考えている事など
              夢にも思っていない。


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