『 いたずらしちゃうぞ!
』
森の奥にあるトレーラーハウスに近づく人影があった。
それは頭からすっぽりとフード付きマントで覆った、子供らしき人物だった。
そしてその子はドアの前で立ち止まるとコンコン、と叩いた。
中にいたジョーはドアを開けて、そこに立つ黒ずくめの”物体”を見た。
そいつは、手を広げ、こう叫んだー。
「トリック・・・・えっと・・・」
「トリック・オア・トリート、だろ。」
「あ、そうそう、それそれ!」
ジョーは笑って奥へ引っ込むと、包みを手にして戻って来た。そしてそれを
放り投げた。
「ほれ。・・・首尾の方はどうだ、甚平。」
「えーっ」甚平はフードを脱いでジョーを見上げた。「何で解っちゃったの
?」
「解るに決まってるだろ。」
「なんでえ、やっぱジョーの兄貴は鋭いや。」
ジョーは笑った。
「残念だったな。で?まだこれから回るのか?」
「うん。・・・実は、次は兄貴んとこなんだよ。」
「健?」
「兄貴、くれるかなあ。いつも、オケラだと言ってごまかすからなあ。」
「甚平、一緒に行っていいか?面白そうだ。あいつがどんな反応するか見て
えし。」
「いいよ、ジョーの兄貴が一緒なら心強いや。」
2人は健のいる一軒家へ向かった。セスナ機が置いてあるのを確認すると
甚平はそっとドアの前に立った。
コンコン。
「はい、どなたー」
ドアが開いて、健が顔を出した。なので、甚平は手を広げて大げさに叫んだ。
「”トリック・オア・トリート”!お菓子くれないと、いたずらしちゃうそ!」
健はえーという表情をして頭を掻いた。
「またかー、うちにはそんなものー」
健は隣を見て叫んだ。
「うわあっ、吸血鬼!」
「・・!?何?」
ジョーは健の胸ぐらをむんずと掴んだ。
「誰が吸血鬼だ?」
「・・く、くるしい〜・・」
健は離されたので、ふうと息を吐いた。
「・・な、なんだ、ジョーか・・。脅かすなよ・・」
「脅かすなって、俺変装してねえだろ。・・ったく。」
「すまん、すまん。てっきり本物かとー・・・なあ、そんなに怒るなよ・
・。」
「兄貴ー、お菓子はー?ちゃんと言っといたじゃないか、明日はハロウィン
なんだから用意しとけ、ってさ。」
「・・俺はそんな余裕ないんだ。」
「もうっ!バイトの金とか入ったんだろ、お菓子くらい買えるじゃんか。」
「・・そう言うなよ・・」
するとジョーはにやと笑った。
「よし、甚平。お菓子がないんなら、いたずらだ!」
「そっか!よーし!!行くぜ!」
2人はそう言うと、健の横をすり抜けて中へ乱入した。
「お、おい、待て!ジョー、何でお前まで。」
「俺を吸血鬼呼ばわりした仕返しだ。」
「だから、謝ったじゃないかー。・・2人ともやめー!」
そして健の家の中はとんだ騒ぎとなった。
外はいつの間にかどっぷりと日が落ちて、満月が地上を明るく照らし始めた。
やがて大きなコウモリがさっと飛び立ち、やがて闇夜へと消えた。
遠くてオオカミの遠吠えが聞こえた。
こうしてハロウィンの夜は更けて行ったのである・・・・・・・。