『 ミミズクの憂鬱? 』



                      大きな爆音がした。
                      と同時に一つ、二つ、と風のように駆け抜ける影が建物の中を進む。
                      目の前から次々とギャラクター隊員が駆けて来た。
                      「バードラン!」
                      健がブーメランで相手をなぎ倒して行くと、ジョーはその間にも目
                      にも止まらぬ早さで敵の背後に回り、パンチと蹴りを食らわした。
    
                      そんな彼らの後を竜が走って来た。
                      「とりゃああー!」
                      竜はギャラクターに突進し、ほとんど体当たりで倒して行った。
                      雑魚どもを一掃するには竜の馬鹿力がものを言う。あっという間に
                      片付け、前を行く2人を追った。
                      力で押して行く竜に対して、健とジョーはその身の軽さを生かして
                      上や左右にピョンピョン飛び回りながら倒して行く。
                      むろん、そんな彼らの戦い方は見事なフォーメーションとして十分
                      発揮されたものであるのだ。

                      やがて3人の行く手に崩れた壁が立ちふさがった。
                      「しまった!」
                      見たとこ頑丈そうな鉄の塊のようだ。ちょっとの事ではびくともし
                      ないだろう。
                      「よっしゃあ、任せとけ。」
                     竜はそう意気込んで力任せにドンドンと押し始めた。
                      「おりゃおりゃー・・・・」
                      しかし竜はへたばって座り込んでしまった。
                      「そんな事やっても無理だ、竜。」
                      「どうするよ、健。」
                      あちこち見渡していたジョーは何やら覗き込んで言った。
                      「おい、健。ここに隙間があるぜ。」
                      「しめた、出られるぞ。よし、そこから出るんだ。」
                      ジョー、そして健はささっと出て行ったが、同じように出ようとし
                      た竜は身体が引っかかってしまった。
                      「うううう〜っ」
                      「竜!」
                      「何やってんだ。早くしねえとー」
                      「分かってるよ〜、抜けねえんだよ〜。助けてくれよ〜。」
                      2人は竜を引っ張ったが、下半身が引っかかってなかなか抜けられ
                      ない。
                      「おめえ、前より大きくなったんじゃねえか?」
                      「ああ、横にな。」
                      「いててて〜っ」
                    「・・竜、少し下がってろ。」
                       ジョーはエアガンにドリルを取り付け、障害になっている壁を切り
                       広げた。
                       「ああ、やっと出られたわ。」
                       「さ、行くぞ。」


                       ゴッドフェニックスに戻った彼らは三日月基地へと向かった。
                       そしてジュンと甚平は健たちから先ほどの話を聞くと笑った。
                       「それは災難だったわねえ。でも無事で良かったわ。」
                       「だけどさ・・・確かに太ったなあ。」
                       「竜、ダイエットするって言ってなかった?」
                       「うん・・・そうだけんど・・・」
                       健はちらとそうお腹をさする竜を見た。
                      「・・・おら、みんなみたいに早く走れないし、健やジョーみたい
                       にスリムじゃないしかっこよくないし・・」
                       みんなは顔を見合わせた。

                       南部博士は窓から外を眺めていたが、何から廊下から声が聞こえて
                       くるのに気づき、ドアを開けた。
                       その長い廊下では誰かが走っているのが見えた。
                       それは健、ジョー、そして竜の3人だった。
                       軽やかに駆けて行く健とジョーの後ろをひいひい言いながら走って
                       いる竜がいた。
                       大きなお腹が邪魔して重そうにヨタヨタとやっとこさ走っていると  
                       いう感じだ。
                       博士はそんな竜を見て吹き出しそうになったが、こほん、と咳をし
                       た。
                       「こらあ、廊下を走ってはいかん!」  
                       「いけね!」
                       「逃げろ!」
                       健とジョーは博士の声にびっくりして更に駆け出した。
                       「走るなって言ってるのに。・・・変わらんな。」
                       博士はため息をついて2人と彼らを追いかける竜を見た。
                       そして何となく懐かしそうに感じて、また部屋に戻った。

                       彼らはある無機質な部屋の天井から縄を垂らし、それに出来るだけ
                       長く掴まっている訓練を始めた。
                       「いいいいい〜。」
                       「竜、まだ5分しか経ってないぞ。」

                      「博士、天井からぶら下がって何かやってますよ。」
                      南部は入って来た技術者がそう言ったので、眉をしかめた。
                      「・・・彼らは一体何をしているのだ・・」
                      「大丈夫ですかね?あの太っている方は明らかに死にそうですけど。」
                      南部はあごに手をやり、思案顔になった。
                      「ふむ。あの2人はやると言ったら聞かないからな。・・恐らく、
                      何かの思いがあってああいう事をしているのだろう。」
                      「・・・はあ。」
                      「まあ、しばらくそっとしておいてくれたまえ。」
                      「博士、資料をお持ちしましたので、こちらに置きます。それでは
                      私は失礼いたします。」
                      「ご苦労。」



                      ISOの地下食堂では、たくさんの料理を並べ、片っ端からパクパク食
                      べている竜の姿があった。
                      そこへやってきた健とジョーはそんな彼を見て呆れてしまった。
                      「・・ったく、竜の奴・・」
                      「これじゃ、元の木阿弥だぜ。」
                      「何だか、俺たちがいい運動させられたみたいだな。」
                      「あんなにくよくよしてたのに、食べるとなるとそれも忘れるなんて
                      よ。・・・さてと、シャワーでも浴びて帰るか。
                      「そうだな、汗かいたしな。」
                      2人は竜をそのままにして引き上げた。

                      竜のダイエットは当分、難しそうである。




                                              fiction