『
チームメイト 』
とあるパドックで数人のメカニックが集まっていた。
彼らはよくマシンについて性能などについて話し合いをすることが
あるので特に気に留める風景ではないのだが、彼らに囲まれるよう
にして立っている一人の男が何やらまくしたてていてただ事ではない
様子だ。
そこを通りかかったジョーはまたか、という表情を
してそこへ向かって歩いた。
「おい、マット。今日は一体なんだ。」
マットと呼ばれたその男はスタッフからジョーに視線を移した。
「お前には関係ない。引っ込んでろ。」
「そりゃないだろ、同じメンバーとして聞いてやろうと思ってるんだぜ。」
「何だ、その偉そうな態度は。第一お前はいつも俺を見下してる。」
ジョーはやれやれと視線を外した。
「ああ、そうだよな。お前はお偉いからな。まわりにチヤホヤされて、
さぞかしいい気分だろうよ。
俺はと言えば、いつもお前の後だ。そのお前が俺の説教だって?
ファーストドライバーのお前に何が分かる!」
マットはそう吐き捨てるように声を荒げ、行ってしまった。
ジョーはじっと彼の後ろ姿を見つめ、腕を組んだ。
「・・ふんっ。あんなんじゃいつまでたっても上へは行けないぜ。」
マット・ビアスはジョーの所属するチームのセカンドドライバー
だ。腕はいいのだが先ほどのようにいつもスタッフなどに
突っかかったり自分の思い通りにならないと怒りだすため、
みな手を焼いていた。
ジョーも気が短かったり時には我がままだったりしたが、
基本的には明るく人当たりは良い方だったので今ではスタッフ
とは冗談を言い合ったりと相性がいい。
マットは来た時からずっと変わらなかった。
ジョーと同じファーストになりたい思いはあったが、性格が
災いしているのかセカンドに甘んじていた。
やはりファーストとは立場的に差があり、花形であり人気者の
彼を恨んでさえいたのだ。
そんな時だ。町に火の手が上がった。鉄獣の出現だ。
科学忍者隊は早速風のように南部博士の元に集合した。
「山の麓近くの町のど真ん中に鉄獣が現れた。比較的大きな
町だから被害も尋常ではない。諸君はこれ以上の被害を出さない
よう一刻も早く出動して欲しい。
ギャザー、ゴッド・フェニックス、発進せよ!」
「ラジャー!」
マットは一人車を走らせていた。
「ふんっ、面白くねえ、俺だってー」
彼はブレーキを掛けた。目の前に大きな足のようなものが見えた
からだ。
「・・うわあっ!」
鉄獣は手を伸ばし、車ごと持ち上げた。そしてそのまま中にしまう
と、また暴れだした。
そんな時にゴッドフェニックスが姿を表した。周りの建物は見るも
無惨に崩れ落ちている。
「ひゃー、酷いもんだなー。」
甚平がそう言うと、隣のジュンは目を伏せた。
「あの鉄獣の中に忍び込んで爆破させるんだ。博士から預かった
装置を使う。」
「それじゃ、少し接近するぞい。」
「よし、ジョー、行くぞ。手伝ってくれ。」
「ん。」
2人は申し合わせたかのようにトップドームへ向かい、そして
開いたと同時に飛び上がった。
鉄獣の目から操作しているギャラクター隊員がいたのを見逃さなかった。
そこから飛び込もうというわけだ。
「バード・ラン!」
健はブーメランを投げてガラスを割った。
そしてジョーとともにそこから中へ入り、あたふたしているギャラクター
を次々と倒した。
ふとジョーは奥の方に一台の車があるのを見た。
「・・健、人質かもしれん。」
「よし、任せたぞ。」
ジョーはその車に近づいた。幸いにも少しつぶれただけであまり破損は
見られない。そして運転席を見て目を見張った。
「・・・マットじゃないか。」
マットは気を失っているらしく目を閉じている。
「おい、大丈夫か。」
「・・・うう・・・」
彼はうっすら目を開け、ジョーを見た。
「・・あんたは・・?ここは・・」
「鉄獣の中だ。待ってろ、今助ける。」
ジョーはエアガンのドリルでドアを焼き切り、マットの腕を引っ張って
車の外へ出した。
「怪我してねえようだな。」
「・・・・・・。」
「・・・何だ。」
ジョーはマットがじっと自分の顔を見ているのに気づき、顔を背けた。
「・・・お前・・」
ジョーは有無を言わさずマットの腕を自分の肩に載せた。
「いいから行くぞ。」
「いてて。」
ジョーは無視して歩いた。
奥から健が駆けて来た。
「セットしたぞ、脱出だ!」
「オーケー。」
2人ーいや、3人は窓から飛び出し、ゴッドフェニックス目指し、
大空へと飛び上がった。
そして彼らが去ると同時に鉄獣は大爆発をおこしてバラバラと砕け
散った。
パドックにはいつものような光景があった。
マシンをメンテするスタッフたち、そしてドライバーの姿。
その後ろの方では、健たちが見ていた。
観客も今か今かとパンフを片手に見守っている。
マットは手袋をはめているジョーのところへやってきた。
ジョーは言った。
「ああ、お前、あのとき捕まったんだって?聞いたぜ。」
「ふん、相変わらず耳早いな。」
マットはああ、という顔をした。
「そう言えば、あのときお前と感じが良く似た奴に助けられた
よ。」
「ふーん、そうか?」
「ああ、すごく生意気そうでな、偉そうなところがお前そっくり
だ。」
ジョーは笑った。
マットは少し言いにくそうに小声で言った。
「・・・あのさ、あの時は悪かったな。」
「あの時?」
「・・・俺はムシャクシャして飛び出した。それであの化け物に
捕まってしまった。ちょっと反省してる。」
ジョーはふーんという顔をした。
「ま、いいさ。分かってくれるんならよ。我がまま言ってちゃ、
他の連中に迷惑を掛けるし、第一チームなんだからな。
チームというのはそういうものだ。一人だけやりたい放題じゃ
ダメなのさ。」
それを聞いた竜は思わずこう言った。
「ナーンだ、あいつ分かってるんでねえの。」
「そうだよ、そうだよ。」と甚平。
健は笑った。
空に号砲が響いた。
「いよいよ始まるぞ。」
そして大歓声と共に、トラック上に爆音が鳴り響いた。
鉄獣などにこの平和な時間が壊される事がない日々が早く来る
事をジョーや健たちは願った。