『 微睡む午後のとき  』




              ジョーは時々見下ろした。
              足下ではじゃれる仔猫のルナがいた。
              「おいおい、引っ掻くなよ。裾がほつれちまう。待ってろ、もう終わるから」
              彼はそう言って火を止めた。水が多めのリゾットが出来上がっていた。
              先ほど作っておいて、食べる時に火を入れたのでほんのり暖かい感じにな
              った。
              それを皿に移して、ルナの前に置いた。ルナは待ってましたとばかりに美味し
              そうに食べ始めた。
              「終わったら、おいで。」
              ジョーはベッドに腰掛けて、目の前の窓から外を眺めた。季節も変わり、森の
              紅葉がうっすらと色づき始めていた。
              しばらくそうしていたら、足下で、這い上がろうとしているルナに気付いて、
              見下ろした。
              ジョーは片手で彼女を持ち上げて、ベッドの上に乗せた。
              「お前の名前、どうするかな。ルナじゃ、思い出ありすぎるだろ。」
              仔猫のルナはそんな事構わないという感じで、ジョーの手にじゃれ始めた。
              ジョーはそんな彼女をくすぐったりして遊んでやっていたが、やがてルナは
              眠ってしまった。
              ジョーはやれやれと同じように横になった。そしてしばらく天井を見つめてい
              たが、いつの間にか眠りに落ちた。



              そこは小さな丘だった。自分はそこに寝そべっていたが、まだ幼い頃の自分
              だった。
              そしてふと目を開けると、同じくらいの幼い女の子が彼の顔を覗き込んでい
              た。
              「・・・レナちゃん?」
              「あー、良かったあ〜。ジョージくん、目を閉じてるから死んじゃってるの
              かと思ったよー。」
              「僕は死んでなんかいないよ!」
              ジョージは起き上がって今にも泣き出しそうなレナを見つめた。
              「・・そんな顔すんなよ。」
              「うん・・。」
              「あっ、早く帰らなくちゃ。ママが心配する。」
              ジョージは立ち上がった。
              「じゃあね、レナちゃん。」
              「待って。」
              「どうしてついてくるんだよ。」
              「だってレナ、ジョージくんの事大好きなんだもん。」
              「え?」
              「レナ、ジョージくんのお嫁さんになるの!」
              「・・・・・。」
              レナは、ぽかんとしているジョージの頬にキスをして走って行ってしまった。
              「・・あっ、待って。」
              ジョージははっとして同じように走って行った。
                              ・
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              そして急に画面が変わった。
              雨の降る中、黒い服を着た人々が並んでいる。両親の側にジョージは立って
              いた。そして彼はじっと、土の中へ入れられる小さな棺を見つめていた。
               ”可哀想に・・持病が悪化したらしいよ。”
               ”まだ小さいのに・・”
              ジョージは雨に濡れる棺を見つめ、つぶやいた。
              「・・・レナちゃん・・ずるいよ。どっか行っちゃうなんてさ・・・・僕も
              連れてってよ・・。」
              隣にいたカテリーナはそっとジョージを抱えるように自分の身体に寄せた。
              知らないうちに彼は泣いていたのだ。

               ”ジョージくん、いつまでも待ってるからね・・”



              ジョーは目を覚ました。
              大きな窓から木漏れ日が差し込んでいる。そして風がそよいで、カーテンが
              揺れていた。
              (・・・・いつの間に寝ていたのか。・・・・それにしても・・何故今頃、
              こんな夢を・・・)
              レナは隣に住んでいた女の子だった。ジョーが小さな頃、よく彼女と遊んで
              いた。しかし、病気が元で亡くなってしまったのだ。
              彼女は亡くなる寸前まで、ジョージの名を呼んでいたと言う。
              ふと、お腹を見ると、仔猫のルナが気持ち良さそうに眠っていた。
              ジョーは笑ってルナを撫でたが、通信が入った。
              「はい、こちらG−2号」
              『鉄獣がB地点に現れ、暴れているとの情報が入った。至急、科学忍者隊は
              集合せよ。』
              「ラジャー!」
              ジョーは仔猫を起こさないように身体を起こし、優しく掴んで、シーツの上
              に寝かせた。
              「出動してくるから、待ってろ。」
              ジョーは部屋を出た。しばらくしてエンジン音が聞こえたが、やがて消えた。

              「にゃあ・・・」
              ルナは寝言なのか、そう鳴いて身体を丸めて寝息を立て始めた。





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