『 夏の思 い出 』






                夏の終わりが近づいたことを知らせるように日差しが傾いている。
                心なしか気持ちの良い風が吹いているが、空はまだ夏の名残をつけたいらしく真っ
                青だ。
                大きな木の近くてしゃがみ込み、何かを一生懸命作っている小さな子供の姿があっ
                た。そして彼はとても夢中だったのか、近づいている人物に全く気がつかないでい
                た。
                「何をしているの、ジョージ」
                ジョージはしかし、母親のカテリーナが近くにしゃがんでも、手を休めなかった。
                「花輪だよ、ママ」
                「花輪?」
                「うん、綺麗でしょ?レナちゃんが好きだった花だよ」
                「まあそうなの。知らなかったわ」
                カテリーナは感心したように言った。隣に住んでいたレナという女の子のことはよ
                く知っていたが、彼女の好みはわからなかった。きっと2人で色々と好みのことな
                どたくさん話をしていたのだろう。
                「もうすぐレナちゃんがいなくなって1年経つでしょう。だから、あげようと思っ
                て・・」
                「きっと喜ぶわね」
                カテリーナは微笑んでジョージの頭を撫でた。そして、さりげなく彼を見つめた。
                ジョージは口をぎゅうと結んで精神統一しようとしているようだ。きっとレナを思
                い出して感情を堪えているのだろう。こんな小さなうちからこんな体験をさせるな
                んて神様はなんて残酷なのだ。レナとは幼なじみで、多分・・・。
                「ジョージ、レナちゃんはあなたのこと大好きだったのよね。確かあなたと結婚し
                たいと言ってたわね」
                「うん」
                「きっとあなたもレナちゃんが・・」
                ジョージはちょっと手を止めたが、再び動かした。
                「・・好きだったよ」
                カテリーナはうなづいた。

                ジョージがある感情を抑えていたのは、こういうわけだ。
                父親のジュゼッペは彼を膝の上に乗せてこう言っていた。
                「いいか、ジョージ。男は強くなければならない。泣きべそなんかかいちゃダメだ
                ぞ。そして常に女性をエスコートすること。丁重に扱うことだ。女性を立てて、自
                分は支える側でいなければならない。それが、男というものだ。優しく強くなけれ
                ばならん」
                「ふーん、パパみたいに?」
                するとちょうど2人のいる居間にやってきていたのかお皿を置いてカテリーナが顔
                をのぞかせた。
                「そうね」
                彼女がまた台所へ行ってしまうと、ジュゼッペはふふんと笑った。
                ジョージは笑ってジュゼッペに抱きついた。
                「わかったよ、パパ」

                カテリーナは目をこすっているジョージを抱き寄せて抱きしめた。
                「泣いているの?ジョージ」
                「・・・泣いてなんか・・いないよ。・・だって、パパと約束したんだも
                ん。・・・男は泣いてはいけないって」
                「あら、男の子だって泣いていいのよ」
                そして髪を撫でた。
                「もちろん、大人の人だって泣きたい時は泣いていいのよ」
                ジョージはそれを聞いて安心したのか、堰を切ったかのようにカテリーナの胸元で
                泣き出した。
                カテリーナは静かに彼の小さな体をしっかり支え、その頭に頬を乗せて目を閉じ
                た。

                2人のいるお花畑から少し歩いたところに村の小さな霊園がある。その中に、レナ
                のお墓があった。とても小さなものであったが、白く素敵な十字架が経っている。
                ジョージは先ほど作った花輪をその十字架の前に置くと、手を合わせて目を閉じ、
                祈り始めた。カテリーナもその後ろで目を閉じた。
                そう、あの日も日差しの強い夏の終わりの頃だった。そしてあの頃と同じ風が流れ
                てくる。
                やがてカテリーナはジョージの手を引き、歩き出した。
                「レナちゃんは幸せね。ジョージにこうして思ってくれるなんて」
                するとジョージは彼女を見上げてこう言った。
                「ママみたいに?」
                カテリーナはふふと笑った。
                「そうね」
                「ねえ、ママ。今日のおやつはなあに?」
                「そうねえ、今日はグラニータでも作りましょう。ベリーがたくさん残ってたはず
                よ。夕方には食べられるわ」
                「うわーい、嬉しいな〜」
                ジョージはいつもの元気でいたずらっ子な笑顔を見せた。
                カテリーナは微笑み、2人は石畳の坂をお喋りしながら下って行った。








                           
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