『星空の誓い』




           南部博士は任務から戻って来た忍者隊のみんなを見たが何も言わずに
           その場を離れた。
           博士の脳裏にはあの目の前で無数のかけらとなって砕けたレオナ3号
           の光景がありありと浮かんできた。

           あの若い宇宙飛行士たちの無念を思うと心苦しかったが、と同時に任
           務を全うするという責任を負うという誇りさえ感じられ、心底感銘を
           受けていた。

           科学忍者隊の諸君もまた10代の若者達だ。みな性格や境遇こそ違え、
           悪をこの世から排除し平和な世界を取り戻すという熱き思いは同じだ。
           しかしまだ年端のいかない彼らを戦場へ送り出すというのはやはり心
           苦しい事ではあった。できれば普通の若者と同じように楽しい事を経
           験させてやりたい。
           そう、ごく普通に遊び、恋をし、平凡な生活を。

           (今日は星が綺麗だな。)
           博士はじっと星空を眺めた。きっと彼らも同じように見ているだろう。
           今日はそっとしておいてやろう。体力的にはもちえろんだが、きっと
           精神的に疲れている筈だ。
           博士は廊下を歩いて行った。


           忍者隊のみんなはいつの間にか散り散りになっていた。特に会話をす
           る事なく別れてしまった。

           健とジョーは部屋の中に残っていた。そしてしばらく黙って空を見つ
           めていたが、健がうつむいてこう切り出した。
           「・・・あの飛行士たちは、俺たちと同じ歳だったらしいじゃないか。
           ・・それを・・」
           健は手を見つめ、ぐっと握りしめた。
           「いいか、同級生を殺めた、と同じ事だ。・・まだ若かったんだ。」
           そんな健を見ずにジョーは言った。
           「・・だから、俺がやればよかったんだ。お前がやる事はない。」
           「いや、ああいうときはリーダーの俺の仕事だ。・・・お前達にやら
           せるわけにはいかない。」
           ジョーはふっと苦笑した。
           「たいしたリーダー様だぜ。」
           健はふとジョーの右手に巻かれた包帯を見て眉をひそめた。
           「・・どうした、怪我したのか?」
           「お前にぶっ飛ばされた時に打っちまったらしい。・・無様だな。
           俺らしくもねえや。」
           「そうだったのか。済まなかった。俺はそんなに強く押したのか?」
           「いや、どういうわけか力が入らなかった。たいした事ねえよ。多分
           気が緩んでたんだろ。」
           「・・・・・・。」
           「それより、見ろよ。今日はやけに星が綺麗だぜ。」
           「ああ・・・・。」
           「もしかしたら、あの宇宙飛行士たちが漂っているかもな。」
           「え?」
           健は意外な事を言うなあと思い、ジョーを見た。
           「親父が言ってた事を思い出してな。人は死んだら星になって残った
           人たちを見守っている、だから悲しむ事はない、たとえ命が果てても
           空の上で輝いているから泣く事はないんだ、って。」   
           健はまた空を見つめた。
           「そうか・・・」
           「だから彼らもきっとこの空のどこかにいるって事さ。親父の言うと
           おりだとすればな。」
           「ああ、きっとそうだ。どこかにいる。俺たちを見てるさ。」
           「おめえも単純だな。」
           健は笑った。
           「なぜ親父さんはお前にそんな話を?」
           「親戚が死んだ時、俺があんまり泣くもんだからじゃねえかな。子供
           だからそんな話をしたんだ。まあ、そんな事もあってもいいのかな、
           て最近思うようになった。」
           2人はまたしばらく星空を眺めた。
           彼らの心の中で、彼らの両親の面影が浮かんでいた。先ほどの話に照
           らし合わせれば、彼らも星になって見守ってくれているハズだ。
           そんな事を考えている時だった。
           無数の流れ星が空を駆け抜け始めた。流星群だった。
           それは光の尾を残しながらゆっくりと進み、目の前を過ぎて行った。  
           「俺は誓うよ、必ずギャラクターを倒し、平和な世の中を取り戻す。
           だから見守ってくれ。君たちの分まで生きて、必ず!」


           健とジョーは流星群を見送り、やがて部屋を後にした。





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