『笑顔』

                小さなジョージにとってその家はとてつもなく大きかった。
                彼をここへ連れて来た男性は時々用事で家を空ける事がたびたびあり、
               その度に家政婦の女性が彼を看てくれていたのだが、一週間経つ今で
               もまだ心を閉ざしていた。

               そんなあるいい天気の日。ジョージは外を眺めていたが、やがて下へ
               降りて外へ出た。
               彼は眩しい日差しに一瞬立ち止まったが、家政婦のいるところへ近づ
               いて行った。
               彼女は色とりどりのお花の手入れをしていた。そしてこんな事を言っ
               ていた。

              「これでいいかしら。うん、素敵だわ。とても綺麗よ。」
              「。。何してるの。」
              「あら。」女性は振り向いて微笑んだ。「珍しいお客さんだこと。
              坊や、やっと口を聞いてくれたのね。」
              ジョージはうつむいた。
              「今ね、お花の手入れをしていたの。」
              「どうして、おしゃべりしてやってるの。誰もいないのに。」
              「お花はね、人の言っている事が分かるのよ。こうやって毎日水を
              遣りながら”綺麗だよ””元気に咲いてね”って話しかけると、応         
              えてくれるの。」
              女性はじっと彼を見つめた。
              「でも、もうおばさんは一人じゃないわ。坊やとこうしてお話でき
              るから。」
              女性がにこっと笑うと、ジョージは微笑んだ。
              彼女はそんな彼を見て胸が痛くなった。
             (この子はなんて笑顔が可愛いのだろう。こんなに小さいのに両親
              をいっぺんに亡くしてしまうなんて)
              ジョージは彼女が顔を曇らせ、目を伏せてしまったのを見て顔を覗
              き込んだ。
              「どうしたの?どっか痛い?」
              女性は慌てて微笑んだ。
              「何でもないわ。そうだわ、坊やにプレゼントあげましょう。」
              そう言うと、彼女は咲いている花の中からいくつか選んで束にする
              と、ポケットの中から目の覚めるようなブルー色のリボンを出して
              手際良く結わいた。そんな彼女の仕草を彼はまるで魔法みたいだと
              思っていた。
              「これは、おばさんと坊やの記念に。坊やがお話ししてくれたお祝
              いよ。」
              「お祝い?」
              女性はうなずいた。ジョージは照れ隠しなのか、彼女に抱きついて
              顔を埋めた。
              女性は少し驚いたが優しく彼の背中を叩いた。

              花束はジョージの部屋の花瓶に飾られた。それは女性が彼の事を思っ
              て選んだ花だった。
              フリージア(無邪気)、ポーチュラカ(無邪気)、カンパニュラ 
              (感謝)、そしてスノーフレーク(汚れのない無垢な心)。それら
              は風に揺られ、優しく揺れていた。
              南部はジョージが元気になってくれた事に安堵した。そして子供の
              順応性に関心するとともにこの平和な時間が長く続く事を願った。



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