『 幼きあ の日 』




                  スナックジュンではいつものメンバーがくつろいでいた。
                  カウンター脇にあるテレビは相変わらずついていたが、
                  今日は歌番組とかでなく、景色が映っていた。
                  そこは外国だろうか。青い海と白い砂浜が画面いっぱいに
                  広がっている。
                  ジュンは思わず手を止めてこう言った。
                  「わあ、綺麗ねえ。海が真っ青。」
                  「こんなところで泳げたらいいだろうなあ。
                  砂浜も綺麗だねえ、お姉ちゃん。」
                  「う〜ん・・可愛子ちゃんはオラんのかの。」
                  「あーあ、どっか行きたいなあ。」
                  「ちゃんとお店の手伝いしてくれたらね。」
                  「・・ちぇっ。」
                  彼らがめいめい画面を見ながらお喋りしている中、
                  ジョーは一人何も言わずに見つめていた。
                  そしてカウンターの上にお金を置くと、
                  「俺はこれで。」
                  と言って立ち去った。
                  「またね、ジョー。」
                  「・・・・・。」
                  健はじっとジョーの背中を見つめた。そして視線を落とした。



                  ジョーはいつもの相棒を走らせて町中を疾走した。
                  やがて海岸線が見えるとハンドルを切り、近くへと向かった。
                  ジョーは車を降りると、その砂の上をゆっくり歩いた。
                  そして立ち止まり、じっと打ち寄せてくる波を見つめた。

                  彼の脳裏に蘇るあの幼き日の海。
                  一人しゃがんで砂で何かを作っている。
                  遠くでは両親が自分を見守っている。
                  なぜ自分はあんなに2人から離れて遊んでいたのか。
                  今なら分かる気がした。
                  両親は、なるべく自分たちから息子を遠くへ離し、
                  守ろうとしたのだ。
                  自分たちがいなくなっても一人で生きていけるように。

                  結局巻き添えを喰ってしまい重傷を負ってしまったが、
                  命は助かった。
                  逃がしてくれた両親のために生きて、
                  2人を死に追いやった連中を倒さなければならない。



                  ジョーは海沿いに沿って再び走らせた。
                  日差しが眩しい。
                  彼はサングラスを掛けた。
                  陽の光から目を守るためでもあったが、
                  目から溢れそうになったものを隠すために。








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