『 サンタクロース 』




          スナックジュンに恒例のクリスマスツリーが飾られた。
          ジュークボックス横に置かれているそれは、ここへやってくる人々を和ませている。
          時には毎年のように飾りを持ってきてくれる年配の人もいて、彼らはツリーを心の拠り所
          にしているようだ。

          「へっ?なんだって?おめえ、サンタクロースっつの信じているんかいの?」
          竜はそう言うと、腹を抱えて笑いだした。
          「な、なんだよ、竜。笑うこたあねえだろ」
          「だって、だって・・・」
          「サンタクロースはいるよ!」
          「どこに」
          「どこって・・」
          するとジュンがクスクス笑いながらやってきた。
          「竜、子供の言うこと真に受けることないわよ。きっと夢でも見たんでしょ」
          「夢じゃないよ、絶対いる!」
          「はいはい」
          ジュンは笑いながら奥へ引っ込んだ。
          「もう・・・夢がないなあ。・・・と、夢じゃない、本当にいるんだ」
          カウンターの端では健とジョーがいたが、2人とも特にコメントはなく座ってコーヒーを飲んで
          いた。
          やがてジョーはこう言った。
          「・・・俺はサンタの正体を早々と知ってしまったなあ」
          「ふーん」
          「あれはイブの夜のことだった。俺はサンタが誰だか知りたくて寝たふりをしてた。うっすら目
          を開けて、彼が枕元にプレゼントの包みを置いてそっと部屋を出ていくのを確認し、そっと後を
          ついていった。サンタは居間へいくと、お袋と何やら話を始めた。やけに親しそうで、俺が不思
          議に思って覗くと、そこにはサンタの格好をした親父がいたのさ」
          健はふふっと笑い、カップを置いた。
          「俺もさ、見破ったことがある。なんとか捕まえようと待ち構えててさ、あいつがプレゼントを
          置いた瞬間に服を掴んだんだ。”サンタめ!捕まえたぞ!”とか言ってね。
          そしたら、帽子を取って、笑ってこう言うじゃないか。
          『おい、坊主。大した奴だな、もう立派な男だな。プレゼントはこれで終わりだな、あははは
          は!』
          親父の顔を見たら、俺も笑いだしてたよ。」
          「親父さんとの思い出がまだあってよかったじゃねえか」
          「・・お前もな」
          ジョーはかすかに笑って目を閉じた。
          2人の後ろを甚平がトボトボと歩いてきた。
          「甚平」
          「・・なんだよ、兄貴達もバカにするんだろ」
          健は甚平に向き直った。
          「そうがっかりするな。サンタは来てくれるさ」
          「ほんと?」
          「ああ、サンタはそんな顔した子供のところには来ないぜ」
          ジョーは甚平の頭をくしゃくしゃにした。
          「やっぱり兄貴達はわかってくれるね。竜なんかとは違うぜ」
          甚平がそう言って竜を見ると、竜は口笛を吹きながら、知らん顔をした。
          「ところで甚平はサンタに何をお願いするんだ?」
          「え、内緒」
          「そうなのか?なんだったら、伝えてもいいぞ」
          「ええ?兄貴、サンタ知ってんの?」
          「ま、まあな・・・」
          「大丈夫だよ、博士に言ってあるから」
          「「博士?」」
          健とジョーはほぼ同時にそう言ったが、甚平は特に気にしてない様子だ。
          「そうだよ。なんかね、科学の力で知らせてあげるって」
          「ふーん」
          甚平はさっと上へ上がっていった。
          「じゃあね、おやすみ〜。兄貴達も早く帰んなよ」
          健はじっと甚平の行った先を見つめた。
          「なんだ、手間が省けたな」
          「ああ」

          イブ。
          甚平は目を覚まし、かすかに聞こえる物音が階下でするのに気づいた。
          甚平はそっとベッドから降りると、音を立てずに階段を降りていった。
          そしてツリーのそばにいる人物を見て目をこすった。
          やっぱりサンタだ!
          言い伝えの通りツリーの下にプレゼントを置いている。
          しかし甚平はじっとサンタの顔を見つめて首を傾げた。
          (・・どこかで見た顔だなあ・・・ヒゲの感じが・・)
          でも。
          (ひげをつけた大人なんてごまんといる)
          サンタが出ていくと、甚平はツリーに近づいた。
          「あれ?なんか落ちてる」
          甚平はそれを見て笑った。
          「はは、あわてんぼうのサンタだな。落としたらダメじゃんか」
          それは、「ISO」と記されたバッジだった。


          翌日はGPでパトロールだった。
          そんな中、甚平はジュンに言った。
          「おいら、サンタの正体わかったよ、お姉ちゃん」
          「え?」
          「サンタはね、みんなのお父さんなんだ」
          「お父さん?」
          「うん」
          レーダーを見ていたジョー、そして前を見ていた健は思わず口角を上げた。
          「まだ言ってら」
          竜はそう言ったが、笑った。

          GPは透き通った青空をゆっくりと進んだ。



                            ー 完 ー






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