『  風邪 』






                   ジョーは目を覚ました。
                   外で大きな爆音がする。人々の叫び声も聞こえる。
                   彼は跳ね起きた。
                   「ギャラクターか!」
                   しかし、ジョーは顔をしかめて頭を押さえた。
                   「・・痛・・・何だ。」
                   おまけに寒気がする。ジョーは手を伸ばして体温計を手にした。
                   案の定、熱が39度近くあった。
                   彼は呟いた。
                   「・・・くそっ、こんな時に。」



                   三日月基地では健、ジュン、甚平、そして竜の4人が司令室で
                   並んでいた。みなバードスタイルだ。博士からの連絡を受けて
                   集合したのである。
                   そんな時、甚平は辺りを見渡した。
                   「あれえ、ジョーの兄貴はまだなの?」
                   すると竜が嫌みっぽく言った。
                   「あいつー、また遅刻かよ。」
                   「そんな事言うもんじゃないわ、竜。何かあったのかもしれない
                    じゃない。」
                   ジュンがそう諌めるように言うと、竜はうつむいた。
                   健はじっと考え込んだ。
                   「・・・・・。」
                   そこへ博士が入って来た。
                   「みな、揃ったな。」
                   「博士、ジョーがまだ来ていません。」
                   博士は健を見てうなづいた。
                   「ああ・・それなんだが・・。ジョーから連絡があって、
                    熱があって体調が思わしくないので休む、とあった。」
                   「ええっ」
                   「ジョーが風邪!?」
                   「『鬼の霍乱』」
                   「確か・・英語では『日射病にかかった悪魔』って言うのよ。」
                   「えーと・・鬼の目にも涙ー」
                   「それはちょっと違うかなー」
                   「そう?やっぱり諺はジョーの兄貴の専売特許だねー。難しいや。」
                   健は思案顔になった。
                   「・・だが・・困ったな。ジョーがいないんじゃ力が発揮できない。」
                   「そうか・・G2号機だけでもあれば何とかなるけど・・」
                   「仕方ないじゃろ。とにかくジョーの分まで頑張るしかないぞい。」
                   「そうね、やるしかないわね。」


                   町で大暴れしている鉄獣はかなり大型だった。
                   頭の角から光線を出し、建物をドロドロに溶かしている。道路も所々
                   亀裂が入り、めちゃくちゃな有様だった。
                   出動したゴッドフェニックスは、ジョーのいない体制ではあったが、
                   博士の要請でやってきたレッド・インパルスがかなりの部分で救って
                   くれた。
                   そして両者力を合わせて鉄獣を倒し、それぞれの場所へと戻って行った。



                   翌日になった。
                   時間的にまだスナックジュンは閉店していたが、一人甚平がカウンターで
                   何かをしていた。そしてこうブツブツ独り言を言っていた。
                   「えっと・・・・卵に砂糖・・・生姜・・・」
                   そんな時、ジュンが奥からやってきて、不思議そうに甚平を見つめた。
                   「甚平・・こんな時間に何やっているの?随分早起きじゃない?
                    珍しい事。」
                   「あ、おはよう、お姉ちゃん。ジョーの兄貴に卵酒でも作って持ってこうと
                    思ってさ。」
                   「卵酒?いいわねえ。きっと温まるわ。」
                   「そうそう、日本酒、日本酒・・っと。」
                   甚平は手を止めた。
                   「あ・・ねえ・・・お酒いいのかな?」
                   「そっか・・・。でも大丈夫よ、ちょとだけなら。」
                   「そうだね。意味ないもんね。」




                   暖かな日差しが差し込む大きな窓の下でジョーは毛布に包まって寝ていた。
                   そんな彼は夢を見ていた。
                   まだ幼い頃の自分が熱を出して寝ており、その側で母親が見下ろしている。

                   『ジョージ、気分はどう?暑い?』
                   『ママー、頭がいたいよ・・・・・ねえママ・・・ずっと側にいてね。
                    ・・どこにも行かないでね。』
                   『大丈夫よ、ずうっといてあげるから。だからゆっくりお休み。』
                   彼女は優しく手を彼の額に載せた。
                   ジョージは安心したように目を閉じた。


                   ジョーは目を覚ました。
                   そしてふっと微笑んで、目を閉じ、片手で覆ったが、その間から涙が
                   こぼれた。

                   ベッドの横にあるテーブルの上にある卵酒の入った水差しに光が反射し
                   キラキラと輝いた。
                   それを飲んだお陰で身体が温まり、ジョーはまた深い眠りについた。










                                   fiction