『 雪がくれた奇蹟  』
 



               「あれえ、お姉ちゃん、雪だ!」
               ジュンは、甚平がそう言って窓から外を見たので、同じように白いもの
               が降っているのを見た。
               「あら、本当だあ。珍しいわねえ、雪だなんて。どうりで冷えてきたと
                思ったわ。
                甚平、それより今日はお買いものしなくちゃ、手伝ってね。いろいろ
                と物入りなんだから。」
               「・・はいはい、分かってますって。」
               甚平は窓から離れてジュンのもとへ行った。
 
               健はブレスレットを押した。
               「・・・あ、ジョーか?悪い、相談に乗ってくれないか。」
               『今、手が離せねえんだ。風呂に入れてやんなきゃなんねえから。』
               「・・・・え?・・・お、お前、まさかー」
               『・・バカっ、仔猫だよ。』
               健は笑った。
               「・・なんだ。分かった、終わったら連絡くれ。」
               『ああ、悪いな。』
 
               ジュンと甚平は人々が行き交う街の中を歩いていた。そしてきれいな電飾
               のついているお店のショウ・ウィンドウをウキウキしながら眺めていた
               甚平は、あっ、ととある店先に近づいた。
               そこには、いろいろな色のローラー・シューズがディスプレイされていた
               が、彼は特に銀色に輝くそれをじいっと見つめた。
               「うわ〜、すっげえ。いいよなあ〜、こんなの履いて滑ったらみんなの人
                気者だろうな〜。」
               「甚平。」
               「あ、お姉ちゃん。ねえねえ、これ見て。」
               「え?・・・ローラースケート?」
               「すげえかっこいいよな〜、いいよな〜。」
               「甚平、今はそれどころじゃないのよ。早く行かなきゃ。どんどん降って
                くるわ。」
               甚平は少しがっかりしたようにガラスの向こう側を見つめた。
               「・・・うん、わかったよ。」
               ジュンはそんな甚平を見つめたが、ポンっと肩を叩いた。
               「さあ、次は青果店よ。」
               「ちぇえ、ますます荷物が増えらあ。」
               「文句言わないの。男の子でしょ。」
               甚平はジュンの後について行った。
 
               トレーラーハウスではジョーと健がベッドに腰掛け、ジョーの傍で仔猫が
               丸まって眠っていた。
               「・・・ふ〜ん、甚平がね。」
               「あいつ、何が欲しいのかいまいち分からないんだ。なんだか知っている
                か?」
               「さあね。」ジョーは思い出したように言った。「そういえば、あいつ、
                ”あれ”好きだろ。」
               「”あれ”?・・・・・ああ、そうか。”あれ”か。そういや、物欲しそうに
                カタログ見てた時があったっけ。・・・・でも、あれ、高くないか?」
               「大丈夫だろ。心配するな、おめえの分はいつか何かで返してもらうから
                な。」
               「・・・ちぇ、ちゃっかりしてんな。」
               ジョーは呆れたように健を見た。
               「どっちがだ。ちゃっかりしてんのはおめえの方だろ。」
 
 
               竜はぶらぶら街中を歩いていた。そしてふと、足を止めて、ジュンと甚平
               が何かを見ていてちょうど離れるのを見た。
               「あんれ、ジュンと甚平だわ。何やってんだ?」
               竜は近づいてショウ・ウインドウを覗き込んだ。そして目を丸くして思わ
               ず声に出した。
               「うひゃあ、高え。・・・そういや、あいつ・・。そっか、これでいこ
                う。」
 
 
               クリスマス当日。ジュンのお使いで街を歩いていた甚平は、道行く子供
               たちの手に抱えられているものを見て羨ましそうに眺めた。
               「・・・・いいなあ・・・。何もらったんだろう。パパやママにもらっ
                たんだろうなあ。・・オイラはいないからなあ。・・一度でいいから
                プレゼント、欲しいよな・・・。」
               うつむいたままお店に入った甚平はそれでも元気を出して言った。
               「ただいまー、お姉ちゃーん。買ってきたよー。」
               しかし、店はがらんとしてとても静かだった。
               「・・・あれ?お姉ちゃん?」
               彼はカウンターに手紙らしきものが置いてあるのを見て手に取った。
               『甚平、この手紙を読んだら、2階へあがっておいで。話があるから。』
               甚平は思わず肩をすくめた。
               「・・・うわ、なんだろ・・・。オイラ、何かやったかな?もしかし
                て・・・あの時さぼったのがバレたのかな。・・・お姉ちゃん、怖い
                からなー。」
               甚平は包みを手にしたまま2階へ上がった。
               そして自分の部屋のドアを開け、恐る恐る入った。
               「・・・お姉ちゃーん・・・・」
               中は真っ暗だった。そしてどこかでひそひそ話が聞こえた。
               (来た来た。)
               (・・しっ・・・・!)
               甚平は電気のスイッチを手探りで探し、電気をつけた。
               「あれ?」
               甚平は目を見張って、テーブルの上のプレゼントの箱を見つめた。する
               と、いつのまにか隣にいた健が言った。
               「遅いぞ、甚平。ずっとお前の帰るのを待ってたんだからな。」
               「えっ、そりゃないよ、兄貴。シャンパン買って来てってお姉ちゃんに
                頼まれたんだよ。」
               「あら、私のせいにするつもり?ま、とにかく揃ったわ。・・じゃ、み
                んな、用意はいい?」
               「いいよ。」
               「オーケー」
               「いつでもいいぞい。」
               「せーの!」
               彼らはそう言って一斉にクラッカーの紐を抜いた。
               「さ、甚平。私たちから、クリスマスプレゼントよ。開けてみて。」
               甚平は目を輝かせ、プレゼントの山に駆け寄った。
               「ありがとう!」甚平はそこにある3つの包みを手にしてそれぞれ揺ら
                してみた。
               「へえ、どれもずっしりする。なんだろうなあ。」
               甚平はその中の一つのリボンをほどいた。
               「あ!」
               甚平のほかに、健たちも覗き込んだ。
               「わあ!ローラーシューズだ!」
               するとジュンが微笑んだ。
               「それは私からよ。甚平、欲しいって言ってたでしょ?」
               「わあ、お姉ちゃん、ありがとう。」
               すると竜が慌てたように口を挟んだ。
               「お、おい、待ってくれよ。オイラのプレゼントだぞい。前に欲しがっ
                てたのを思い出してー」
               健はジョーと顔を合わせてジュンたちを見た。
               「俺たちだってー」
               「・・・まさか。」
               彼らは包みを全部開けた。そして中を見て唖然とした。案の定、そこに
               あったのはみな同じ色のローラーシューズだったのだ。
               「まあ・・・・みんな、同じ事考えていたのね・・・。」
               ジュンがそう言うと、一同は力が抜けたようにはあと息を吐いた。
               そして彼らは同じものを3つ並べて考え込んだ。
               「どうする?お店に返す?」
               「・・他のを考えるか。」
               すると甚平。
               「いいよ、全部オイラがもらう!」
               「ええっ?」
               「こんなに持ってどうするつもり?」
               「いいじゃない、とっかえひっかえ使えばさ。そうすればいつまでも
                滑っていられるよ。な、いいだろ、お姉ちゃん。」
               「でも・・・。」
               「せっかくみんながくれたんだもん。オイラ、他の子供たちが羨まし
                かったけど、今はオイラののが一番さ。」
               「よく言うぜ。」
               健が頭を軽く小突くと、甚平は舌を出した。
               「それより早く始めようよ、腹減ってしかなないわ。」
               「ちぇっ、竜はほんとにそればっかなんだから。」
               「オラはローラースケートなんかより食いもんのほうが大事だわさ。」
               「竜はロマンってもんがないんだよ。」
               「まあまあ、竜も甚平もそれくらいにして。はじめましょうか。」
               「そろそろ博士も来るころだろうしな。」
 
               博士が何かを持ってジュンのお店にやってきたころには雪もすっかり止ん
               だ。
               しかし、大きな月が顔を出し、輝き始め、街に積もった雪が白く浮かんで
               見え始めた。
 
               やがて星も多数瞬きはじめ、聖夜を包み込んだ。
 
 
 
 
                             −Merry Christmas.






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